住む憧れ「グランドメゾン」の人気の理由。
一見すると普通の家っぽくて店に見えない、日が昇る前に開店して正午すぎには閉店しているなどなど、ぼくの“食ツボ”にグサッと突き刺さる北九州のご当地うどん「どぎどぎうどん」。まだ食べたことがないという方はぜひ一度食べてみてほしい一杯を、その歴史とともにご紹介します。
とにかく個性的な一杯、それがどぎどぎうどん。
もっと、もっと多くの人からその存在を知られてほしいうどんがある。どぎどぎうどんだ。2015年だから、かれこれ6年くらい前に発行した拙著「うどんのはなし 福岡」では、「どぎどぎうどんという渦」というコラムも収めた。どぎどぎうどんがとにかく好きだからだ。
うどんのはなし 福岡
どんなうどんかというと、ブロック状態のステーキ、いわゆるサイコロステーキのように見える牛肉(主にホホ肉)が惜しみなく盛り付けられていて、つゆは透明度が低く、黒みを帯びている。
第一印象で強烈なインパクトを受けるが、実際に食べてみると「あれ?」というほど、拍子抜けに食べやすい。ごろっと入った分厚い肉は、しっかり煮込んであるため、その見た目とは裏腹にふわりとやわらか。そして、その黒みから濃ゆい味を想像してしまうつゆもまた、見た目ほど塩気が強くなく、すいすいと飲めてしまう。このギャップがたまらない。
このどぎどぎうどんには、二つの欠かせない薬味がある。ショウガと唐辛子だ。ショウガは初めから入っていたり、卓上に擦ったものが置かれていたり、さらには無造作に置かれたショウガを自分で擦って入れたり、アプローチはさまざまだが、さっぱりと食べられる上に、その風味がアクセントになるため、一度、ショウガを入れた味を知ってしまうと、もう不可欠だ。そして、唐辛子。これもまた、辛いのが苦手でなければ多めに入れてみてほしい。ピリッとした刺激がクセになること請け合いだ。
ショウガ、一味唐辛子の提供スタイルも店ごとにさまざま。
ちなみに名前の由来は、つゆの表面に脂がギトギトと浮かんでいるビジュアルから“どぎどぎうどん”と呼ばれるようになったとか。どきどきうどんと言う店もあったり、メニューに「肉うどん」とだけ書いている店もあったりする。そういうのも好きなポイントだ。ぼくのように、どぎどぎうどんのお膝元で生まれ育っていない人が知らずに「肉うどんをください」と注文したら、きっと目を丸くするだろうな。
住宅街に隠れた名店|柴山うどん
そろそろ、どぎどぎうどんを食べたいという欲求で頭の中はいっぱいになっているかと思うので、引き出しにつまったリストの中から、おすすめのお店を3店舗、選んでみた。
まずは「柴山うどん」。立地は完全に住宅街。全然、飲食店が無いようなエリアに店を構えている。それもどぎどぎうどん店の特徴の一つで、結構、郊外にぽつんと、というロケーションが多い。それらの多くは家族経営のような雰囲気の店で、本当に店に入った瞬間にホッとする。中央にテーブルがあり、その左右にカウンター席があって、カウンター席のほうは壁に向かって食事をすることになる。この壁集中スタイルともいうべき席の作り方が大好きで、基本的には空いていたら、壁側を選ぶ。
ここのうどんは、肉がたっぷり! そして味付けがとても良い。肉で魅せるどぎどぎうどんだ。肉がたっぷりということで、つゆにも肉の旨味が凝縮される。一滴たりとの残したくないつゆ、それがここにはある。
どぎどぎうどんでは珍しい細麺派|めん処 ふくや
続いて紹介したいのが、「めん処 ふくや」。大好きな北九州のラーメン店「東洋軒」からすぐ近くということもあり、ずーっとスルーしてしまっていた。近くに行ったらイコール、東洋軒だったから。その日、定休日にあたってしまい、検索してみたら、この店に出合った。結果、最高だった。
どぎどぎうどんで、ぼくの好きな店の多くは手打ちうどんで、麺が結構太めだ。太めのちょっとごわごわとした力強い食感の麺にでかい肉が合わさるのが極上だと思って生きてきたが、この店で自分の中のどぎどぎ観が変わった。そう、ここの麺は結構、細めなのだ。その細さが良い。つるつると唇を滑走していく麺が、実に心地いい。そして麺が細い分、肉の存在感が引き立っていたように思えた。これぞ、どぎどぎうどんの振り幅!
昼までで売り切れ必至の超人気店|めん処 たけや
最後に紹介するのが「たけや」。早朝6時にオープン(コロナ禍なので変更の場合あり、要確認ください)し、正午前には閉店するという、幻のような店だ。この店のことを知らない人で、なおかつ、飲食店は昼に営業しているという先入観を持っている人は、いつ行っても閉まっている店のように誤解するかもしれない。
ここはぼくの中のどぎどぎうどんの指針となっている店で、手打ちの力強い麺、だしのバランスの良いつゆ、やわらかく、大ぶりな牛肉、それらのバランスが個人的にパーフェクト。元々、ご主人はどぎどぎうどん好きが高じて、脱サラでこの店を開業した。
大好きゆえに、いろんな店を食べ歩き、それらのご自身の理想を結合させたのが、たけやの一杯なのだ。研究熱心だったからこその、高次元でのハーモニー。営業時間が短いので、なかなか気軽には行けないが、それでもぜひ訪れてみてほしいレジェンド店。
以上、厳選してみた3店舗。これらを比較するだけでも、どぎどぎうどんといっても、その中でさらに個性がひしめいているのがわかると思う。ぜひ現地にて、体感してみてほしいうどんカルチャーだ。
今回紹介したお店はこちら
店名
柴山うどん
住所
福岡県北九州市小倉南区上葛原1丁目4−2
連絡先
非公開
営業時間
9:00~14:00
※新型コロナウイルスの影響により、営業時間・定休日等が記載と異なる場合がございます。ご来店時は、事前に店舗へご確認をお願いします。
定休日
水曜
店名
めん処 ふくや
住所
福岡県北九州市小倉北区黄金1-8-12
連絡先
093-952-6079
営業時間
8:00〜14:30
※新型コロナウイルスの影響により、営業時間・定休日等が記載と異なる場合がございます。ご来店時は、事前に店舗へご確認をお願いします。
定休日
火曜日
店舗名
めん処 たけや
住所
福岡県北九州市小倉南区八重洲町10-9 TRIAL 駐車場
連絡先
非公開
営業時間
麺が終了次第閉店
※新型コロナウイルスの影響により、営業時間・定休日等が記載と異なる場合がございます。ご来店時は、事前に店舗へご確認をお願いします。
定休日
月曜
『ヌードルライター 秘蔵の一杯』 山田祐一郎 著