故郷の味を求めて。愛媛県・松山編「鍋焼きうどん」

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ヌードルライター 山田祐一郎

いつの頃からか、地元の味が気になるようになりました。ぼくの場合、福岡生まれ、福岡育ちなので、ラーメンかうどんでしょうか。誰にでもきっとある故郷、地元の味。みんなが知っているご当地グルメもあるでしょうし、ご当地グルメ化されていない近所の中華料理店の焼き飯だったり、駅のホームの立ち食いそばだったり、いろいろあるかと思います。そんな故郷の味というテーマで書いてみます。初回は愛媛県・松山で。あなたの故郷の味は何ですか。

故郷の味を求めて。愛媛県・松山編「鍋焼きうどん」

どこか遠くに、例えば海外へ出掛け、戻ってきて真っ先に食べたくなるもの。きっとそれは自分にとっての故郷の味なんだと思います。ぼくは福岡生まれ、福岡育ちなので、恋しくなるのはやっぱりラーメンかうどんでしょうか。空港から地下鉄に飛び乗って、いったん博多駅まで移動。そこでようやく実感として帰ってきた感覚が出てきて、ふらりと豚骨ラーメンや博多うどんの店へ。まずはビールで、願わくば赤星で喉を潤す。そして、ラーメンやうどんが胃袋にすとんと入ったときの、あの安心感。口から、鼻から、ふうっと息が抜けていき、その代わりに空気が体内に入り、血が巡っていくのがわかります。故郷の味って、味というものを超越しているなとも思うんです。その味によっていろんなものが整っていく。そんな気がしてなりません。

「アサヒ」と「ことり」は松山市のアーケード街「大街道」から一歩、路地を入った場所にあります。

妻が愛媛県出身ということで、定期的に海を渡り、愛媛県に行っています。愛媛県に行き出してわかったんですが、かなり広い。実際、福岡県の面積が4,987 km²に対して、愛媛県は5,676 km²。広いだけあって、その地域ごとにいろんな文化が根付いています。
県庁所在地の松山市は道後温泉があり、市中には路面電車が走る、とても素敵な街です。そんな松山の、いわゆる故郷の味を紹介したいなと思った際、真っ先に頭に浮かんだのが鍋焼きうどん。当時、妻の姉夫婦が松山市内に住んでいたので、連れていってもらいました。

鍋焼きうどんはアルミ製の鍋で提供されます。蓋を開けると、ふわりと湯気が立ち上り、食欲が刺激されますよ。

衝撃的だったのが、その提供店の代表格とされる「アサヒ」と「ことり」が徒歩数秒の距離にあったこと。そんな目と鼻の先で商売をすると、お客さんを奪い合ってしまいそうな気がしたのですが、結論からいうと、全くそんなことはありませんでした。「アサヒ」と「ことり」の鍋焼きうどんは、確かに同じ鍋焼きうどんだったんですが、別物だったんです。

「アサヒ」の鍋焼きうどん。甘いつゆが沁みます。卵のトッピングがおすすめです。

こちらは「アサヒ」。昭和レトロな雰囲気がたまりません。

「アサヒ」の創業は昭和22年だそうで、時はまさに戦後の直後。食事自体も満足にとれない時代ですから、甘い食べ物となるとさらに手軽に食べられません。そんな中で初代が鍋焼きうどんの店を開業。甘めに味付けした鍋焼きうどんを提供し、今もその創業の味を守っています。

「ことり」の鍋焼きうどん。すっきりした味わいのつゆが、やっぱり沁みます。

「ことり」もまた、昭和のノスタルジックな雰囲気。

一方、「ことり」はその2年後、昭和24年に創業。こちらの鍋焼きうどんは甘口ではなく、つゆを一口、口に含むと、やわらかな醤油の味わい、そしてイリコ出汁の風味が広がります。
ぼくの場合、「アサヒ」を先に食べていたので、どこもこういう甘めの調味がされているのだと思い込んでいたので、「ことり」で食べた時には衝撃を受けました。そして、同時に嬉しくもなりました。

鍋焼きうどんのお供にはぜひいなりを。

例えば、博多ラーメンでも同じ豚骨スープでもその濃淡で全く印象が変わります。それは実際に現地に根付いた食べ物であり、ご当地の人々が日常的に食べるからです。日常的に、なおかつ多くの人々に親しまれるということは、どこの店も似たり寄ったりの味になるはずがありません。お店ごとに差別化を図り、個性を出していくのが自然な流れ。鍋焼きうどんにおいてもその個性の自然発生がなされていたのですから、思わず笑みがこぼれるというもの。

「アサヒ」の品書き。潔い!大好き!

その後、何度もお店に行っていますが、今日は「アサヒ」、その次は「ことり」、時折、二軒をはしご、というように、とことん松山の鍋焼きうどん文化を体内に吸収してきました。
現地では「ぼくはアサヒ派」「私はことり派」というような派閥が生まれていると聞きました。そういうの、最高ですよね。故郷の味ゆえに、思わず熱くなるその感じ。
次はどちらに行こうかな。書いているうちに無性に食べたくなってきたので、きっとはしごでしょうね。

紹介したお店はこちら

店名

ことり

電話番号

089-921-3003

住所

愛媛県松山市湊町3-7-2

店名

鍋焼うどん アサヒ

電話番号

089-921-6470

住所

愛媛県松山市湊町3-10-11

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