故郷の味を求めて。岐阜県編「中華そば」

公開日

ヌードルライター 山田祐一郎

いつの頃からか、地元の味が気になるようになりました。ぼくの場合、福岡生まれ、福岡育ちなので、ラーメンかうどんでしょうか。誰にでもきっとある故郷、地元の味。みんなが知っているご当地グルメもあるでしょうし、ご当地グルメ化されていない近所の中華料理店の焼き飯だったり、駅のホームの立ち食いそばだったり、いろいろあるかと思います。そんな故郷の味というテーマで書いてみます。第二回は岐阜県へ。あなたの故郷の味は何ですか。

日本のど真ん中、岐阜県のソウルフード「丸デブ」の中華そば

故郷の味って、味というものを超越しているなとも思うんです。その味によっていろんなものが整っていく。そんな導入からはじまった日本のソウルフードを紹介していくシリーズ「故郷の味を求めて。」。前回は愛媛県の鍋焼きうどんを取り上げました。第二回目は、日本のど真ん中、岐阜県を訪ねます。

岐阜市民のソウルフードは何か。ぼくが教えてもらったのが、その二大巨頭ともいうべき「丸デブ 総本店」(以下、丸デブ)「更科」の存在でした。前者は中華そばの店。そして後者は蕎麦の店です。どちらも素晴らしいお店なので、まとめて紹介したい気持ちもありますが、しっかり1店舗ずつレポートしたほうが伝わるかなと思い、今回は「丸デブ」にフィーチャーします。

来店した当時、ちょうど建物の改修工事中でした。

「丸デブ 総本店」の創業は大正6年で、西暦でいうと1917年。当時は第一次世界大戦(1914〜1918年)の真っ只中です。初代は東京の中華料理店で修業を積み、まだ中華そばの“ち”の字すら存在しなかった岐阜の地で、その味を広げたいという思いから店を開業したそうです。最初は屋台スタイルでの船出だったようですが、その後、昭和19年(1944)に現在の場所に店舗を構えました。

いろいろな取材を続ける中、グルメ雑誌で老舗飲食店の連載を担当していました。そのインタビューの中で創業者たちは、そして創業者の声を今に伝える当代の店主たちは、口を揃えてこう言います。「この味をみんなに食べてほしい」と。そういう「思い」が先にくるんです。その思いがあるからこそ、何もない未開拓切り拓ける。この「丸デブ」の初代も、きっと熱い人物だったのでしょう。

そんな「丸デブ」では、創業から一貫して、生粋の中華そば店であり続けています。メニューは「中華そば」と「わんたん」のみ。どちらもワンコイン。500円という良心的な価格設定です。ちなみに、増税前までは一杯400円だったとのこと。事前に「常連客はセットで楽しむ」とは聞いていたのですが、あいにく「わんたん」は売り切れ。「中華そば」だけでも残っていて良かったとして、念願の一杯を待ちました。

目の前に配膳されたのは、日本の中で大衆に根付き、その時代とともに進化し、世界へと羽ばたいている今日のラーメンではなく、全くもって今風ではないシンプルかつノスタルジックな面持ちの一杯です。溢れんばかりに注がれている褐色のスープ、そのスープの中にはっきりと視認できるこれまたたっぷりの麺。なんともいえない無言の圧力と、思わず見入ってしまうインパクトがあります。トッピングはチャーシューとネギ、かまぼこ。これらが本当に似合う。煮玉子、海苔はもちろん、もやしですら不要。何を足しても、何を引いても完成しない、最高のバランスです。

衝撃的なビジュアルに反して、味わいはことのほか実直。派手さはなく、しみじみと沁み入ってきます。聞けば、中華そば自体、創業からずっとこの味なのだそう。変化だらけのこの世の中にあって、何も変えないという選択に痺れます。中部地方らしいなと感じた味の決め手はたまり醤油。このたまり醤油を効かせた鶏ガラスープは脂っ気がないため、誤解を恐れずにいうと、うどんや蕎麦のつゆのようだとも感じました。
中太ストレートの麺は自家製だそう。キリッとエッジの立った麺にスープがよく絡みます。トッピングの甘辛く調味されたチャーシューは、食べて良し、さらにはチャーシューから滲み出るエキスがスープに奥行きを出していました。

ラーメンというものがこの先、さらに進化すればするほど、きっと「丸デブ」の「中華そば」の個性はどんどん際立っていくように思えます。そしてこの「中華そば」がソウルフードになる地域の人々にとって、ますます替えがきかない存在になりそうです。

紹介したお店はこちら

店名

丸デブ 総本店

住所

岐阜県岐阜市日ノ出町3丁目1

営業時間

11:00~18:30頃
※売り切れ次第終了
※新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間・定休日が記載と異なる場合がございます。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

定休日

6日・16日・26日

『ヌードルライター 秘蔵の一杯』 山田祐一郎 著者


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