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【Honda e Advance試乗実況レポート】
最高の褒め言葉を言わせてくれ「このクルマを作った人はバカでしょ?」

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アカサッカ

2020年8月27日に発表され、同年10月30日に発売された話題のホンダ初の量産電気自動車「ホンダe」を試乗レポート!

本田技研工業が初の量産EVとして世に送り出した「Honda e」

世の中には星の数ほどの名車がある。アレも欲しい、コレも欲しいと思うのは我々クルマバカたちの儚い夢。ましてや、絶世の名車たちをはべらすクルマハーレムなど夢のまた夢。

だが、人間には想像力がある。フランスの小説家ジュール・ヴェルヌをご覧なさい。彼は一度も冒険をしたことがない。にもかかわらず、部屋に閉じこもり「八十日間世界一周」を書き上げた。私にはヴェルヌのような想像力はないが、妄想力なら負けない。雑誌やカタログをペラペラめくるだけで、すっかりオーナー気分を味わえる立派なクルマバカなのだ。

ここでは、そんな私が試乗記などを通して、古今東西の魅力的な自動車を紹介していきます。さあ、私と一緒にドライブをしながら、愉しい妄想に浸ってみませんか。

記念すべき第一回は、本田技研工業が初の量産EVとして世に送り出した「Honda e」

honda e

実を言うと、私はレシプロエンジン原理主義者である。とくにホンダの高回転型エンジンの虜なのだ(なんたって私はホンダ・ビートの元オーナーですからね)。エンジンをぶん回してトルクを出すクルマは実に愉快だ。

そんな私はHonda eの登場に怒りを覚えていた。

EVだと? ふざけるな。ホンダはエンジン屋だろうよ。

でも、デザインは最高に良い。久しぶりだ。ホンダでここまでクールなデザインは。

それに、実際に乗らないでEVを批判するのは卑怯だと思い、「Honda EveryGo」なるレンタカーサービスを利用して試乗することにしました。

ドキドキしてきた。最先端過ぎる・・・

今回借りたのは、「Advance」という最上位グレード。
自動運転による車庫入れ機能やサンルーフが搭載され、標準仕様の136PSに対して154PSとハイパワーになっている。

早速乗り込もう。
キーを持った私が近づくだけで、ボディに隠されたドアノブが突然飛び出してきた。まずそのことに度肝を抜かれ、ドキドキしてきた。最先端過ぎる・・・、私に乗りこなせるのだろうか。

ドアを開けて乗り込む。
「あ、これは、ガチなホンダ車だ。」
ホッとした。

honda e

デザインは極めて良いのだが、なぜかちょっぴりチープな雰囲気。こんなのが500万円もするのか?フルモデルチェンジしたN-ONEの方が高級感あるぜと吹き出しそうになった。

だが、それが良い。実にホンダらしい。
ビートがそうだった。上品なチープさが心地よい。乗っているうちにしっくりきて、愛着が沸く。あらゆる操作機器が自分の一部になる。

そうなるともう手放せなくなる。ホンダ中毒の一例です。

Honda eには、本来ならメカニカルな部分に集中したい開発者が、お客さんを喜ばせたい一心で内装も頑張った感も伝わってくる。作り手の暖かみを感じる。ホンダらしくて気に入った。飽きのこない長く乗れる内装だ。

そして私は叫んでしまった。なんだ、この車!

インストゥルメントパネルいっぱいに広がる5つのモニタが点灯した。まるでモビルスーツのコクピットみたい。

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アクセルを踏む。
こいつ、動くぞ。 
当たり前だ。

そして私は叫んでしまいました。
「なんだ、これ。」
シームレスな走り出し。モーターから発生する動力が何も介さずにダイレクトにタイヤへ伝わる感触。これが電気自動車の走りってヤツなのか。面白い。

レシプロエンジン原理主義者はすでにご満悦。そして出ました。クルマバカの妄想が。この車、峠へ持って行ったら楽しいかも! 

峠道へGo!

予定変更だ。都内を走るつもりだったが山梨のいつもの峠道へGo!

と思ったら、なんと充電が40パーセントしか残っていません。

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中央道・調布インター入り口手前のコンビニに充電スポットがあったはず。とりあえず三鷹から調布へ向かいます。渋滞の市街地6.3㎞を走って40%→36%。

おい、ちょっと待ってくれ。いくらなんでも減りが早くないですか。電池の減り方がまるで一昔前のスマホみたいじゃないですか。途中で電池が切れて動かなくなったら・・・という不安で焦る。

調布のコンビニで30分急速充電して、36%→60%。充電していると、周囲の視線を思いきり感じて多少恥ずかしい。でも、ちょっぴり優越感。

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中央道に入り、本線へ合流すべくアクセルを踏む。自分のイメージ通りに加速しました。ギアボックスの干渉を受けずに、どこまでもスピードが伸びていく感覚。

エコカーが嫌いで、パワー厨であられる英国の誇るクルマバカ、ジェレミー・クラークソン卿も「POWERRRRR」と叫びながらご満足してくださるのではなかろうか。 

車線を変えるだけで笑みがこぼれる。ハンドリングが素晴らしい。これまた思ったように舵が切れるのだ。

ちょっとまて。この走りは・・・なんだか懐かしいぞ。

初代NSX!

スーパーカーとしてのオーラを纏いつつ、それでいてとても運転しやすく、私のような下手くそでも、イメージ通りにクルマを操れる。人馬一体感を味わいながらニヤニヤが止まらなくなる。サーキットに連れて行ったら突然凶暴になりそうな予感を抱きながらも、ワクワクしながら楽しく街を走ることができる。この味付けがホンダとしての最適解であり、伝統として受け継がれているのだろうか。

まさか、最新テクノロジーの結集であるHonda eから初代NSXを連想するとは。はやく峠道へ連れて行きたい。焦る気持ちを落ち着かせてくれたのが、追い越しの加速感。いやあ、爽快だ。楽しい。幸せだ。

だが、「何かを得るには何かを失わなければならない」という森羅万象における物理的法則がここでも発動する。

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わずか16㎞ほどで60%→50%。電費が悪すぎる。こりゃ致命的だ。高速道路で電欠したら最悪だぞ。不安でステアリングを握る手にじわりと汗がにじむ。私は気が弱いのだ。

すぐさま八王子の手前にある石川パーキングエリアで30分の急速充電。50%→95%。コンビニよりも高速道路の充電器の方が効率は良いようだ。

ここから47㎞先の山梨県・大月インターで残り65%。これからとんでもない山奥へ行くので、近くのコンビニで再チャージ。勇気もチャージされ、不安は消えた。90%なら安心だ。

「このカーブはこう曲がって欲しい」という私の願いを叶えてくれる

峠道の入り口に到着。

ここから「Advance」ならではの機能の出番だ。走行モードを「Sport」にチェンジ。

ちなみにこのグレードには、標準でハイグリップタイヤのミシュランが装着されている。だが、なぜかこの個体は後輪のみブリヂストンのポテンザを履いていた。懐かしいな。ビートにもポテンザを履かせていたよ。

アクセルを踏みながら、くねくね道の峠道を登ると、すぐに私は大笑いした。このクルマを作った人、バカでしょ???

峠道のコーナーをイメージ通りに駆け抜けられるクルマが私にとっての愉しいクルマだ。とくに非力なエンジンを思いきりぶん回して駆け上がる爽快感は格別。Honda eは、シティーコミューターとして開発されたと聞いている。しかも次世代のエコの象徴とされているクルマだ。

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Sportモードはスイッチを押すだけ

そのクルマがですよ。いつもの峠道に持って行ったら、最高の峠道マシンに変貌したのだ。

小気味よいトルクを発生させながら、急勾配のカーブをぐいぐい登っていく。
感覚的に、3000㏄V6エンジンよりも力強く感じる。トルク配分を自由にセッティングできると聞いたが、ホンダの中に天才的なシェフがいるのだろう。とても美味な味付けを施している。

なにより、Sportモードと通常モードのメリハリが素晴らしい。スイッチ1つで走りが明らかに変わる。Sportモード時にアクセルを踏み込む。すると、ぐいいいいいっと後ろ足にトラクションをかけながら勢いよく駆ける感覚は、まさにスポーツカー。これはすごい!

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ちなみに、S660は「相当面白いコーナーリングマシン」だ。初代NSXとビートもね。

やはり、ミッドシップは正義だ。だが、同時にRR(リアエンジン・リアドライブ)も正義だ。今、新車で買えるRRといえば、ポルシェ911、ルノー・トゥインゴ、そして我らがHonda eくらいだろう。

RRのメリットは、加速力とコーナーリング性能と言われている。さらにHonda eは、EV車であるメリットを生かし、重量配分が前後50:50、左右も50:50を実現している。重心が中央になることでバランスの良い走りを提供できるというわけだ。だから「このカーブはこう曲がって欲しい」という私の願いをことごとく叶えてくれる。

また、ボディ剛性もすこぶる良い。シャシーがカチッとしているから、キビキビと気持ち良く動き回る。これもEV車の恩恵として、シャシーに配列されたバッテリーがボディ剛性に一役買っているのだという。

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Honda eは私たちの知っている「ホンダの走り」を見せてくれた

思い通りに走り、曲がり、止まる。
まさに人馬一体。
愉しい。

最近のホンダは大丈夫か?という心配があちこちから聞こえる。美声とともにシルキーな挙動をみせる、あの官能的なホンダエンジン。彼らは、それを捨てようとしている。新社長の「ホンダは自動車メーカーではない」という言葉にがっかりした人も多い。

だが、なにも心配することはない。

Honda eは明らかに私たちの知っている「ホンダの走り」を見せてくれました。しかも、初代NSXやビートを彷彿させるとびきり最高の走りを。

「作った人はバカだ」と最高の褒め言葉が出たのは、このクルマを買えるのは、街をちょこちょこ走る目的の富裕層しかいないのに、それを最もホンダらしい「峠道が愉しい車」として完成させたからだ。

つまり、「EVの時代になろうとも、ホンダはホンダだぜ」と私たちにその走りでメッセージを送ってくれたのだ。私はもうすっかり安心した。

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愛車のFJクルーザーとツーショット。丸目は正義だ

さて、小心者の私は相変わらずバッテリーのことが気になって仕方がない。現在、残り62%。さきほど通りすぎた別ルートの峠道で帰れば満足できると判断して、Uターンをすることにした。

普段、私はFJクルーザーに乗っている。センターラインのないこの峠の道幅だと複数回の切り返しが必要だ。いや、たぶんフィットでも切り返さなきゃいけないだろう。そう思いながらUターンを開始した。

あれ?あっけなく、一発で転回できた。
Honda eの車幅は1.75メートル。フィットより大きいのだ。意外でしょ?なのに、最小回転半径は驚異の4.3メートル。ちなみにホンダのエンジン車で最も低い数値が、軽自動車のN BOXで4.5メートル。そのすごさが伝わるかしら。
ますます気に入った。太宰治がうろちょろしていた三鷹の狭い路地も気軽に出かけられる。
 
さあ、帰りは下り坂。
Honda eにはパドルシフトが装備されている。シフトによって回生ブレーキの利きを調整することができるのだ。また、前後ストラットサスペンションによる四輪独立懸架を採用し、シビッククラスの大型ダンパーを装着している。

その効果は下り道で発揮された。急なカーブでオーバースピード気味に突入しても四つ足が地面を掴んで離さない。なんたる安心感。なんたる操縦性。これは愉しい。下りのおもしろさはビートの専売特許だったのに!

“緑の中を走り抜けてく真っ赤なホンダ♪”(懐かしい歌詞っぽくなった)が、こんな気持ちの良いクルマだったとは。

Honda eを私は何度も何度も振り返っては見てしまい、なかなか帰れなかった――

もうだめ。禁断の言葉がついに口から出ました。
「欲しい!」
「だよね。」ホンダeがいたずらっぽく笑った気がしました。

回生ブレーキのおかげでバッテリーがまるで減らない。むしろ、1%ほど充電されている。

ああ、いつまでも下り坂ならいいのに!そうなると奈落の底に墜ちるしかないのだが、今生の別れができない私は中央道・大月インター入り口まで到着してしまいました。

帰りに談合坂サービスエリアで充電をして、三鷹に戻ると残り70%だった。中央道は、上り東京方面は下り坂が続くから、燃費にも電費にも優しいのでありました。

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スマホと繋げるとグーグルマップをホンダeから操作できる

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本編では触れなかったが、任意の場所をタッチするだけで、後は自動で車庫入れしてくれる

別れは辛かった。
ぽつんと置き去りにしたHonda eを私は何度も何度も振り返っては見てしまい、なかなか帰れなかった――。

私はHonda eが気に入った。

ルーフキャリアを装着して大好きなキャンプや川釣りに行きたいくらい。買い物も、峠道ドライブ遊びも。ずっと一緒にいられる相棒になれる。

けれども、最大の弱点はその航続距離。
30分の急速充電で最低300㎞は走ってくれないと実用的とは言えない。今回のドライブ(総走行距離約250㎞)で私は4回も充電をした。計120分。片道の所要時間よりも長い。よほど時間に余裕のある人しか遠出はできまい。

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また、先の大震災のように停電が続いたら? みんながみんなEV車になったら? 充電のための大渋滞があちこちで発生しそう。

いろいろな課題があるが、これまでホンダは、技術的課題を根性でブレイクスルーした経験のあるメーカーだから、私は期待したい。近い将来、Honda eの航続距離が伸びたとき、私は人生最後のクルマとして迎え入れる妄想を膨らませている。

[文・アカサッカ]

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