永利裕子

上野万太郎の「この人がいるからここに行く」外国人旅行者向けの料理教室が大人気の「九州やさい日和」永利裕子さん

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上野万太郎

福岡を代表する人気ブロガー&ライターの上野万太郎さんの連載人気企画。万太郎さん自ら惚れ込んだ”あの場所のこの人”を紹介する『上野万太郎の「この人がいるからここに行く」』今回は、外国人旅行者向けの料理教室が人気の永利裕子さんのお話しです。

野菜ソムリエプロが開く料理教室

青果業界で知り合った20年来の友達がいる。野菜ソムリエプロであり青果流通業の社員だった永利裕子(ながとし・ひろこ)さん。彼女は福岡市中央区にある自身のアトリエで料理教室を開催している。その中で特にコロナ禍が明けて以来、外国人観光客向けに日本の家庭料理を一緒に作って一緒に食べて文化交流をするという教室が大人気らしい。

永利裕子
永利裕子

永利さんがどのような経緯で料理教室を開くようになり、どんな思いで外国人との交流を深めていこうと思ったのか、その辺の話を聞いてみることにした。

農家の娘として生まれた永利さん

1970年、5人姉弟の長女として福岡県小郡市に生まれた永利さん。実家が農家だったため、生まれた時から米、麦、大豆、季節ごとの野菜に囲まれて育った。大家族だったので自宅で採れる野菜を使って子供の頃から家族のために調理をしていたそうだ。

「毎日当たり前のように野菜に囲まれて育ったので、身の回りに野菜があるのが当たり前すぎて特別な興味は持てなかったんです。ただ、野菜を使って作った料理を弟や妹たちが喜んで食べてくれたので調理をすることは昔から大好きでした」
自分では意識してなかったそうだが、この頃から将来野菜ソムリエとして料理教室を主宰するという基本的な素養は身に付けていたのだろう。

就職・結婚・出産

「専門学校を卒業後は、就職・結婚・出産と経験しました。二人娘に恵まれ、子育ても落ち着いた頃、将来まで続けられる仕事のことを考えるようになりました。そして、何かしら手に職をつけたいなと思ったんです。以前通っていたパン教室の経験を活かして、30歳をすぎた頃にパン作りの先生の資格を取るためにまた学校に通いました」と永利さん。
パン作り先生の資格を取得後はパン作り教室も開催していた。さらにその技術を生かしてイタリアンレストランの厨房でも働いたそうだ。

実家で農業の仕事

福岡、東京などで生活した後、家族の事情もありみんなで小郡市の実家近くに移り住み、農業を手伝う機会が増えたそうだ。
「実家に帰ってきたら新鮮な食材がたくさん周りにある環境にあらためて感動しました。子供の頃には当たり前すぎた野菜のある生活、大人になってあらためてその有難さに感謝するようになりました」

―しかし、そのまま農業にハマることはなかったんですね?

「実際に農業を仕事としてやってみるとやっぱり大変な仕事でしたね。家業は弟が継いでいたので、自分は野菜作りや農業を周りから応援するような仕事はないかなと考えるようになったんです」

そして永利さんは、2004年野菜ソムリエの資格を取得し、さらに2005年に野菜ソムリエプロの資格も取得した。
野菜ソムリエとは一般社団法人日本野菜ソムリエ協会が認定する民間資格。野菜ソムリエの使命とは、生産者と消費者との架け橋となり、野菜・果物の目利き、栄養、素材に合わせた調理法など毎日の食生活に欠かせない野菜・果物の幅広い知識を身につけることで、食に関わるさまざまな仕事に活かすこととされている。(日本野菜ソムリエ協会のサイトより一部引用)
ちなみに現在約7万人の野菜ソムリエが誕生しており、そのうち野菜ソムリエプロはその全体の約5%しかいない上級資格だ。永利さんは九州で5人目の野菜ソムリエプロとなり、本業としてその世界で生きて行こうと決意していた。

青果流通業界に再就職

野菜ソムリエプロの資格を取った永利さんは、中央区天神の新天町にあった青果店に就職した。僕が知り合ったのはちょうどこの頃だ。さらにソムリエ協会で知り合った仲間から「時や」という生産者と消費者を直接つなげる青果店を立ち上げるというプロジェクトに誘われて転職することにした。「時や」は西鉄高宮駅の高架下にあった。入社してしばらくすると初代の店長が辞めたので、永利さんがいきなり2代目店長に就任という。
「お手伝いのつもりで入ったのにすぐに店長を任されて右も左も分からず大変でした。店舗管理、店頭販売だけでなく仕入れの仕事もしながら、結局8年間勤めましたね。直接たくさんの農家さんを訪問して生産現場のいろんな話を聞けたことはとても勉強になりました」

「時や」を退職した後は、JR九州が始めた「八百屋の九ちゃん」の立ち上げに参加。マネージャーとして店舗運営に関わりながら、野菜素人のスタッフたちに野菜のことをイチから教える仕事をしていたそうだ。野菜ソムリエプロとして資格と知識をフルに活用した仕事を続け、5店舗に広げるまで伴走し、5年で「八百屋の九ちゃん」を卒業した。

料理教室の開催

「野菜を販売するというまさに青果流通業のど真ん中で十数年仕事をしてきたのですが、そんな野菜を美味しく食べてもらうことにシフトした仕事をしたくなったんです。元々子供の頃から料理が大好きだったので」と永利さん。
さらに「そもそも野菜ソムリエの仕事には野菜の調理法などについて広めていくことが含まれているので、今後は野菜を売ることではなく、野菜を美味しく食べてもらうことに注力したいと思うようになったんです。そして、料理教室を開くことになりました。」

旬の野菜を使った料理教室。素材を学びながら料理を教える。以前「時や」や「八百屋の九ちゃん」時代に部下に教えてきたようなことを教室の中で繰り広げていった。

―料理教室を始めて何年くらいなりますか?

「筑紫野で2年、中央区で8年。トータルでもうすぐ10年になります。もちろん女性の生徒さんが多かったですが、年配の男性の方もいらっしゃいましたよ。特に旬の野菜を使って季節ごとにメニューをいろいろ考えていたのでリピーターが多かったですね」

永利裕子
永利裕子

コロナ禍明けに「Airbnb」に登録

一時期は、コロナ禍で教室開催ができなかった時もあったそうだ。ちょうど50歳で英語を覚えようと思い勉強を始めた頃だったので、コロナ禍の間は英語を勉強していたという永利さん。

「コロナ禍が明けて、どうせ再開するなら旅も好きだから海外の人と触れ合うようなことをできないと思っていたんです。そんな時に、民泊サイト『Airbnb』が行っていた体験型の企画募集を見つけたので、そこに外国人向けに日本の家庭料理の料理教室を提案したら合格したんです」と永利さん。「Airbnb」(エアビーアンドビー)とは、世界中の宿泊施設や体験をオンラインで予約できるサービスのことだ。

― 「Airbnb」に登録して3年目になったそうですが、どんな人が参加されますか?

「アジア圏からはもちろんですが、欧米の方が意外と多いのがびっくりしましたね。ご夫婦やカップルで参加される方が多いです。今では料理教室の半分は外国人の方が来られるていますね。新規は外国人、日本人はリピーターという感じです。もちろん外国人の方も『また日本に来たので参加したい』と再度来てくれる方もいらっしゃいます」

今回取材の時に教室に参加していたのもフランス人の夫妻だった。日本が大好きで長期休暇をつくって数回来日しているそうだ。取材のついでに僕も一緒に会話に入れてもらったが、話が盛り上がって取材どころではなくなったくらい楽しかった。

永利裕子

― 外国人向けにはどんな料理を作るのでしょうか?

「和食や日本料理というと敷居がお互いに高くなるので、あくまでも日本の家庭料理という位置づけです。おにぎりと味噌汁、煮物、焼き物など、旬の野菜を使った身近な料理が多いです。日本の出汁や旨味の話をしたり、さらには味噌作りなどを体験できるコースもあります。梅干、らっきょう、納豆など外国人からしたら馴染みにくい食品を試食して話が盛り上がることもあります」

― 海外の方の反応はどうですか?

「エプロンをつけてもらって一緒に作るのですが、とっても喜んでもらっていると思います。英語圏の人ばかりではないのですが、お互い片言の英語を共通言語として一生懸命会話しながら進行しています(笑) 半分は料理教室で、半分は試食したりお話しながらお互いの文化交流が目的になっていますね。」

最後に

野菜ソムリエから青果業に入り、そこから料理教室、さらには外国人との文化交流と、野菜や料理を通じて20年以上社会と関わって来た永利さん。

― 振り返ってここにたどり着いて今思うことはどんなことですか?

「世界中のいろんな国の人と触れ合うと、世界の人って考えも生活も人生そのものへの価値観も本当に自由だし型にハマってないし、壁がない感じがとても素敵に感じますね。日本人はどうしても島国の単一民族なのでいろいろ周りのことを気にしたり考え方が枠にハマっている気がします。その違いを肌で感じることが出来ますね。日本人のこの価値観は世界レベルでみると逆に珍しいんだろうなと思うようになりました」
さらに「仕事やプライベートで海外に行くことも大好きで、一人で現地のお店に入ってスタッフやそこで知り合った人たちとお話しするのが大好きなんです。こういう教室を開催していると、逆にあっちから会いに来てくれて国際交流できるというのは有難い限りです」と。

― 日本の家庭料理について思うことはありますか?

「季節ごとの食材を大切にして受け継がれてきた日本の家庭料理は体にも心にも本当に良いなぁと思うんです。これからもシンプルでも良いから毎日のごはんを大事にしていきたいと思っています。逆に海外にもその国ごとの食文化があって面白くて興味深いです。外国人の参加者には必ず『朝ごはんは何を食べてるの?』って聞くんです」。日本の家庭料理が大好きながらも各地の家庭料理にとても興味がある永利さんだ。

永利裕子

― 将来の夢はありますか?

「今年8月にも語学研修のためにマルタ共和国(イタリア南方の地中海に浮かぶ島国)に行ったのですが、現地でちらし寿司や肉じゃがを作って現地の人に楽しんでもらいました。今は日本に来られた外国人を相手にしていますが、いつの日か自分が外国に出向いて、そこで日本の家庭料理を教えたり振る舞ったりするような仕事が出来れば嬉しいなと思っています!!」

永利裕子
永利裕子

食べ物は世界中の人類共通の大事なテーマ。それが国際的な文化交流、ひいては平和貢献になるかもしれないと思うと素晴らしい取り組みだ。是非頑張って夢を実現してほしいと思うし、ずっと応援していきたいと思わせてくれる元気で明るくてパワフルな永利裕子さんなのだ。

ご興味あれば彼女の料理教室のドアを叩いて、会いに行かれたらいかがだろう。素晴らしい笑顔で迎えてくれること必至です。

INFORMATION

店名

九州やさい日和

住所

福岡市中央区薬院3-12-22美山ビル

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