阿蘇キャンプ場

阿蘇のキャンプ場で、真夏に冷たい風を聴いた

公開日

アカサッカ

不定期連載のアカサッカ氏のコラム。福岡出身、関東在住の彼。今年、福岡に帰省の際、熊本県阿蘇のキャンプ場にふらっと出かけて綴った詩情豊かなキャンプレポートです。

ここは、阿蘇。
草原と山と空が、どこまでも手をつないで広がっている。
遠くに見えるのはなんという山だろう。山肌はやさしく丸く、空とけんかせずに溶け合っていた。なにより、この広い景色に人工建造物がまるで見当たらないというのはどういうことだ。

阿蘇キャンプ場

昼間、太陽は高くのぼっていたのに、不思議と汗はにじまなかった。
この壮大な景色にタープを張るのがなんだか惜しくて、愛車がつくってくれた日陰に椅子をひとつ置き、ただ、ぼんやりと座った。
エアコンの効いたカフェよりも、よほど快適だった。
さわやかな風が、ひとすじ、するりと通りぬけていった。
まるで美しい絵画の中に迷い込んでしまったように思えた。

阿蘇キャンプ場
阿蘇キャンプ場
阿蘇キャンプ場

そして夜。

阿蘇の雄大さは何も山々の景色だけではない。遮るもののない、広い星空にも心を震わせた。
この星の数。
圧倒的、としか表現のしようがない。
久しぶりに、そう、本当に久しぶりに流れ星が見えた。
夜空を眺めるのに、焚き火のほのかな火でさえ邪魔だと思えるなんて初めての経験だ。

やがて火を落とし、静かに寝袋にもぐりこむ。
「真夏だからきっと寝苦しいだろう」なんて思っていた自分が、ばかみたいだった。
寝袋のチャックをしっかり閉めて、それでも首もとがひんやりする。
寒い、じゃなくて——肌寒い。
その絶妙な感覚が、たまらなく心地よかった。
虫たちの声が、遠く近くで交差する。
ジージーではない。ガサガサでもない。
ちいさな楽器たちが、夜にチューニングしているみたいだ。
そんなことを考えていたら、いつのまにか眠っていた。
夢の中でも、わたしは阿蘇の空気に包まれ、満ち足りた気持ちだった。
忘れられない良いキャンプになった。

このゴンドーシャロレー・オートキャンプ場の設備もまた、心に残るものだった。
トイレは驚くほど清潔で、ウォシュレット付き。
各サイトには専用の流し台まであって、“高規格キャンプ場”なんて言葉では足りないほどだ。
世界基準から見ても、なかなか出会えないキャンプ場だと思う。  
それでいて、この低価格。思わず、料金表を二度見してしまったほどだ。

片付けを終え、帰るとき、ふと振り返った。
誰もいないサイトに、穏やかな風がまだ吹いていた。「またおいで」とでも言ってるような気がして、私はうなずいた。
阿蘇のキャンプ場は、まるで自分だけの夏のおとぎの国だった。
そう、空と山と星と、さわやかな風が、ずっと前からそこにいて、何も言わずに待っていてくれる。
外国人観光客の長い列も、大型バスのクラクションも聞こえない。
ここには、誰かの“インバウンド戦略”なんて関係ない、素のままの静かな日本があった。

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