ウクライナ侵攻

「Study to be quiet.」そう、静かなることを学べ。|カリシンアの寝袋とウクライナ侵攻

公開日

アカサッカ

カリンシアは、オーストリアの登山愛好家が設立したヨーロッパ最大手の防寒具メーカー。防寒具・寝具のプロが作った寝袋は世界で高い評価を受けています。カリシアの寝袋と現在も終わる目処の見えないウクライナ侵攻のことをアカサッカさん独自の視点でコラムを寄せてくれました。

カリンシア社のDefense6

雨の日は大きなタープの下で雨音を聞きながら、お気に入りのチェアにゆったり座って呆ける。最高の贅沢だ。冬は雪上に椅子をぽんと置き、焚き火に当たりながら悪企みをする時間も至福のひとときである。

カリシンア

そうして夜が更けて、「そろそろ寝るか」と思ったときに、我がテントの中で快適な寝具が待っていると思うだけで満ち足りた気持ちに浸れる。

オーストリアに本拠を置くカリンシア社のDefense6という寝袋を手にしてから、ますます就寝タイムが楽しみになった。

カリシンア

実は、このDefense6は旧ソビエト連邦のモルドバ共和国製なのだ。とても作りが丁寧で、私は密かにモルドバという国に興味を抱いていた。

モルドバは、ウクライナの西方に位置するヨーロッパ最貧国である。当然、これといった産業はない。モルドバで連想できるのは、かろうじて「恋のマイアヒ」をヒットさせたO-Zoneくらいだろうか。

今まさに、その経済的に非常に厳しい国が、ウクライナからの避難民を全力で受け入れている。

そして第二の侵攻先としての危機にさらされている。
実際、今回のウクライナのようにロシアからの武力介入によって領土の一部を奪われた歴史がある。沿ドニエストル共和国と名付けられたこの土地はモルドバにとって重要な工業地帯だった。

アイザック・ウォールトン 著:『釣魚大全』

先日、知人から「ウクライナの人々が苦しんでいるときにキャンプか。君は平和だなあ」と軽口を叩かれた。

本人は冗談のつもりなのか知らないが、このような悪意なき人々が同調圧力を生み、息苦しい世の中を作っているのかな、などとボンヤリと考えながら、ふと「釣魚大全」という一冊の本を思い出した。

古くから釣り師のバイブルと愛されてきた『釣魚大全』が英国で出版されたのは、1653年のことである。ちょうど、市民革命の最中でクロムウェルが軍事政権を樹立した年だ。

釣魚大全

英国では人々が主義主張によって激しく争う内乱の時代であったが、著者であるアイザック・ウォールトン卿は徹底して動乱の世に背を向け、素朴でのびやかな文体によって釣りの技術や愉しみだけでなく、釣りを通して人としての生き方についても記した。

ウォールトン卿は、英国の内乱を「黙殺」という表現をもって己の意思を世に伝えたかったのかもしれない。

ウクライナ侵攻

私もウォールトン卿のように、自然へ出かけ、世の中の一切合切を黙殺することで溜飲を下げようと思うのだけども、なかなか難しい。

私のキャンプ道具は、ヨーロッパ各国、アメリカ、日本、最近では中国メーカーのものもチラホラと混ざってきた。

ウクライナ侵攻

それらは喧嘩などしない。それぞれの魅力と特性を発揮しながら、豊かな時間を与えてくれる。人類も本来はそうであったほうが愉しいのにと思うのは、私だけだろうか。

最後に。
ウォールトン卿は「釣魚大全」の中で我々に「Study to be quiet.」と説いた。
そう、静かなることを学べ。

ロシアもアメリカも中国も、そして私たちも、静かなることを学ぶべきなのだ。
この世には、言葉や暴力では解決できないことが多すぎる。

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