勉強の哲学

何のために勉強をするのか? それは「自由」になるためです。

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リブロプラス 野上由人

多くの人は、勉強の「破壊性」に向き合っていないのではないか?勉強とは、自己破壊である。では、何のために勉強するのか?気鋭の哲学者・千葉雅也の代表作となった1冊。雑誌 mutoに掲載したリブロプラスの野上さんの書評を改めてご紹介します。

勉強の哲学/千葉雅也

2017年春、多くの書店の「人文書」売場には、東浩紀『観光客の哲学』、國分功一郎『中動態の世界』、そして千葉雅也『勉強の哲学』が並んで置かれ、さながら春の哲学書まつりだった。
東はデリディアン、國分・千葉がドゥルージアンという違いはあるものの、フランス現代思想に通じた哲学/批評の書き手による新刊が、ほぼ同時期に刊行され、注目を集めた。
いずれも哲学の本としてはよく売れている。

ここ数年、日本を含む課題先進国において、これまでの経験や常識だけでは対応困難な、難しい問題を多く抱え、いよいよ哲学の出番だと言われている。
その場しのぎで何とかなる事態ではなく、ここはじっくり原理的に考えなければ、次の手が打てない状況に追い込まれている。そのような認識が一般に広がっている。
千葉雅也は本書で、勉強とは同調圧力から解放され自由になるための自己破壊だと説き、勉強の原理を明らかにする。

勉強の哲学

逆に言えば、勉強しないと今かかえている不自由や不幸、難しい問題は解消されないことを前提として、今ある環境(統治/権力)への抵抗を「勉強」と名付けて唱道している。
原理を明らかにしたうえで、その実践方法を案内する件は、学生やビジネスマンに向けた「勉強法」の本として読める。読むべき本の選び方やノートの使い方など、役に立つ情報がたくさん書かれている。
ただ、本書の原理編を読んだあとでは、勉強の意味が変わっている。
あくまでも本書において「勉強のすゝめ」は、変容と自由への行動を促すアジテーションなのだ。
世が世なら、「共謀」の罪に問われるかもしれない。
現状追認的/環境依存的な思考では目の前の問題を解決できないと気付いた人に、いま哲学が求められているとして、ラディカル・ラーニング(深い勉強)の意義を再定義する本書こそ最初に読むべき本なのだろう。
学問的な背景を補論として最後にまとめ、本文中には哲学の専門用語をほぼ使わない構成も、初学者にやさしい。

このテキストは、2017年6月発刊の雑誌mutoに掲載されたものです。

著者プロフィール

千葉雅也
1978年栃木県生まれ。東京大学教養学部卒業。パリ第10大学および高等師範学校を経て、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論コース博士課程修了。博士(学術)。哲学/表象文化論を専攻。フランス現代思想の研究と、美術・文学・ファッションなどの批評を連関させて行う。現在は、立命館大学大学院先端総合学術研究科准教授

書籍名

勉強の哲学

著者名

千葉雅也

価格

1,400円(税別)

発売日

2017年4月

ISBNコード

9784163905365

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