シビック

最新技術てんこ盛りの新型『Honda CIVIC』は素晴らしかったと告白せねばらない

公開日

アカサッカ

新型 HONDA CIVIC(シビック)

女性の前でサイドターンをうまく決めたらどんな美女もイチコロということを信じて、これまで生きてきました。あのジェレミー・クラークソン卿も同じことをTVショーでドヤ顔で語ったとき、思わず膝を叩いて激しく頷いたものだ。

ところが。

世界各国の自動車メーカーは我々からハンドブレーキを取り上げやがった。電子式パーキングブレーキなるものが主流になり、我々は女性を口説くための数少ない技を奪われてしまった。
一方で、私の友人のように、どんな坂道でも絶対にハンドブレーキを使わない変態もいる。アクセルとクラッチの操作によって、クルマをピタリと静止させることを最上の幸せとしているのだ。なにが楽しいのかわからないが、その横顔はいつも満ち足りた表情をしている。
残念なことに、いまのMT車は坂道発進の際、エンストを起こさないようにクルマがエンジン回転を調整し、しかも自動でブレーキをかけているのだ。
彼がもし最新式のクルマに乗ったら、、、いや、そんな悪趣味な想像はやめておこう。

このように、我々古きクルマバカは基本的に原理主義であり、懐古主義である。未知なるものにケチをつけたがる。そのくせ変節漢なのでタチが悪い。
なにが言いたいかというと、最新技術てんこ盛りの新型シビックハッチバックは素晴らしかったと皆様に告白せねばらない。

シビック

私にとっての走りの愉しいクルマのベンチマークはビートであり、初代NSXである。最近、S660が加わった。S2000はどうも相性が合わない。気がつくとホンダのミッドシップ原理主義者になっていて、シビックやインテグラといったFFスポーツにまるで興味を持たなかった。

しかもシビックは大きくなってボーイズレーサーではなくなった。電子制御の塊?人間様が操ってナンボのもんでしょうに。興味はますます薄らいでいた。

ところが。

新型シビックに乗り込んだ瞬間に仰天した。初めて乗るのに、懐かしい感覚。

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ドライビングポジションがビートやNSXに似ている!(ちなみにビートとNSXは双子かというほどドラポジがそっくりなのだ)これは私の知っているホンダだ。なんだか嬉しくなってしまった。だが、アクセルを踏むと、私の知らないホンダが現れた。エンジンが勢いよく私を引っ張っていく!

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1.5リットルVTECターボ。最高出力は182ps/6000rpm、最大トルクは240Nm/1700-4500rpm。最近のホンダエンジンは軽自動車のNシリーズでさえ、もはや工芸品レベルのクオリティだと思う。

前方のボンネットにクルマが走るためのすべてが詰まっていて、ステアリングから後ろはただのおまけに思えた。まるで荷馬車に乗って、威勢の良い馬を手綱で操作しているようだ。後輪駆動車に親しんできた私からすると新鮮な驚きだった。なるほど、これがホンダのFFなのか。面白い!しかも車体の大きさをまったく感じさせない。まあ、キビキビとよく動く。下手なコンパクトカーより車幅感覚が捉えやすく、狭い路地でも扱いやすい。こいつはちょうど良いサイズだ。小さいクルマ原理主義者の私が言うのだから間違いない。

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いつもの山坂道に入ると、もっと愉しいことが待っていた。ステアリングを通して、テレパシーのように私の思いがクルマに伝わり、イメージ通りにコーナーを駆け抜けていく。右足でアクセルとブレーキ、そして左足でクラッチを操りながら、シフトがすっと吸い込まれていく。気持ちいい!

私はすっかりマックス・フェルスタッペンになっていた。イエス!イエス!と叫びながら、絶対王者ルイス・ハミルトンを破った2021年のアブダビでのファイナルラップごっこを愉しんでいた。ホンダユーザーが30年ぶりにF1ワールドチャンピオンになった伝説のレースだ。(私はこの歴史に残る劇的勝利を生放送で観ていたことを死ぬまで自慢するだろう)

おっと、話が逸れた。
シビックと私は一心同体になった。次のカーブが待ちきれない。もはや恐れるカーブなどこの世に存在しない。その刹那、ある疑問が脳裏をよぎった。
「あれ?私はこんなにクルマの運転、上手だったっけ。」
そうです。あとで知ったのだが、シビックは私の自尊感情を傷つけずに、こっそり、かつ的確に私の運転をサポートしていたのだ。

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新型シビックハッチ6速NT。ホンダの開発者にショートストロークマニアがいるに違いない。素晴らしい出来です。

新型シビックの6速MT車では、ドライバーの操作や速度などに応じて、シフトチェンジの際のエンジン回転数をコンピュータが制御していたのだ。しかも、いま話題の新型シビックタイプRの技術が先行投入されたものだという。すごい。なお、 私が運転した際、ブリッピング(※)もできたので、操る自由を奪われたわけではない。
※シフトダウンの際にアクセルを煽って、適切なエンジン回転数に合わせること。

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次に、コーナー性能について。
私が気持ち良くカーブを駆け抜けられたのは、シビックに搭載されている「アジャイルハンドリングアシスト」のおかげだったことが判明した。
カーブなどでの旋回時に、ドライバーのステアリング操作に反応して自動で前輪ブレーキを制御する機能である。こいつのおかげで車両の動きが滑らかになり、安定感のあるコーナリングが可能となる。
この技術も先代シビックタイプRやS660など限られた車種にしか搭載されていない。(そうか、それでS660も安心してコーナーリングを愉しめたのか。今さら知ったよ)

つまり、ホンダは技術革新によって、NSXやビートといった、かつての名車の愉しさをより多くの人たちに安全に味わえるようにしていたのだ。
それだけではない。市街地を走るときにレーンキープ機能をオンにすれば、シビックがそっとステアリングに手を添えてサポートしてくれる。とくに帰り道、峠道遊びで疲れた私には心からありがたいと思える機能だった。

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高速道ではレーンチェンジが愉しくなるほどのハンドリングと直進性能を発揮し、峠道ではホンダサウンドを響かせて望み通りの走りを叶え、街中ではサポート機能でドライバーを優しくいたわってくれる。これ以上、シビックになにを望むというのだ。

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キャンプ道具を余裕で飲み込む広大なラゲッジ。車中泊もできます。

だが、私は業が深い。ユーティリティやデザインに文句ないのに、物足りないのだ。ホンダ車には、なにか強烈な個性、癖が欲しい。分かりやすいアイコン的な技術的突破を感じたい。
1991年当時、地球上にミッドシップオープンカーはホンダとフェラーリしかいなかった。ビートに乗っていて、となりにポルシェやフェラーリが来ようとも、「こちとらpowered by HONDAだ。セナの時代の技術が詰まってるんだ」と胸を張れた。
ホンダは、実現不可能と言われていた過酷なアメリカの環境規制を世界で最初にクリアした。キュートなコンパクトカーに折りたたみ式のバイクを積むことができた。実用車だったワゴンをスタイリッシュにして走りの愉しさを与えた。

今のホンダ車にそういう驚きやワクワクはあるだろうか。反面、なにもかもをシビックに求めるのは酷なのも分かっている。こんなことを感じるのは、ホンダのラインナップが偏りすぎているせいだ。シビックとHONDA e以外、これといってピンとくる車種がない。

SUVが流行っているからって、ヨソと同じようなものを作ってどうするんだ。SUVでもホンダらしさを追求して欲しい。

それでも。

シビックは若い技術者たちに良い影響を与えるだろう。ホンダの伝統が現行車にも受け継がれているのは大きなレガシーだ。今後のベンチマークとなり得るクルマだ。ならば、近い将来に期待しようじゃないか。
シビックのように走りが良く、それでいて個性的なホンダがカムバックする日を!

きっとできるはずだ。電子制御の塊だろうが、ハンドブレーキがなくなろうが、ホンダらしい走りは今も健在なのだから。

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