住む憧れ「グランドメゾン」の人気の理由。
2022年に10周年を迎えた“レストラン界のアカデミー賞”こと「アジアのベストレストラン50」。2019年以来3年ぶりに華やかに開催された授賞式とアフターパーティのもようをお届けします。
そもそも「アジアのベストレストラン50」ってどんな賞?
おいしいものが大好きな読者のみなさんは、普段どうやって素敵なレストランの情報をゲットしていますか? 本誌「muto」のレストラン案内はとっても充実していますし、それ以外に有名どころなら「ミシュランガイド」や「ゴ・エ・ミヨ」、国内なら「食べログ」、ちょっと詳しい方なら「ラ・リスト」なんかも活用しているかもしれませんね。
そんな数あるレストラン格付けガイドの中で、ユニークなのが「世界のベストレストラン50(通称フィフティー)」。一般的なガイドブックは、国や土地といったエリアや料理ジャンルによって区分され、その範囲で評価するものですが、フィフティーはまったくノンジャンル。国も地域も料理の種類も価格帯も関係なく、とにかく“いま!”の時代の最先端を味わえる、イノベーティブなレストランが並んでいます。
©︎The World's 50 Best Restaurants
ランクインしたシェフたち。 左からvilla aida・小林寛司さん(14位)、La Maison de la Nature Goh・福山剛さん(36位)、Florilege・川手寛康さん(3位)、傳・長谷川在佑さん(1位)、cenci・坂本健さん(43位)、La Cime・高田裕介さん(6位)、ete・庄司夏子さん(42位)、SEZANNE・ダニエル カルヴァートさん(17位)、Ode・生井祐介さん (13位)
フィフティーは2002年に英国で始まり、2013年には地域限定版として「アジアのベストレストラン50」と「南米のベストレストラン50」がスタート。今年(2022年)は新たに「中東&北アフリカのベストレストラン50」も誕生しました。
ランキングは投票の集計で決まり、投票者は、料理人やレストラン関係者、メディア、フーディーズがそれぞれ3分の1ずつ。男女比は半々。2022年版「アジアのベストレストラン50」では、アジア全域で合計318人が選ばれ、日本では53人に投票権が与えられました。投票の対象となるのは、投票者が1年半以内に訪れたレストランで、基本的には最大10店(居住エリア内は最大6店)までというルールですが、渡航制限があった今年は、最大8店(居住エリア内は6店)で、エリア外2店については、渡航できなかった人は棄権可能という特別ルールが適用されました。
50店のうち11店が日本のレストラン。特別賞とのW受賞も
今年のリストを見ると、50店のうち11店を日本が占めるという大活躍ぶり。「アジアのベストレストラン50」が創設された2013年に、東京の里山キュイジーヌ「NARISAWA」が1位に輝いて以来、傳の躍進によって10年ぶりに日本に栄光がもたらされました。
ランクインしたのはこちら。
2022年を象徴する名シーン。アジアのベストレストラン1位になった傳・長谷川在佑さんを涙・涙で祝福する、苦楽をともにした相方のFlorilege・川手寛康さん
1位 傳
3位 Florilege
6位 La Cime
11位 茶禅華
13位 Ode
14位 villa aida
15位 NARISAWA
17位 SEZANNE
36位 La Maison de la Nature Goh(祝!)
42位 ete
43位 cenci。
特別賞の「ハイエストクライマー賞(昨年からもっとも順位を上げた店)」はOde
「ハイエストニューエントリー賞(初ランクインでもっとも順位が高い店)」はvilla aida
「アジアの最優秀女性シェフ賞」はeteがW受賞しています。
ランクインしたレストランってどんな店?
このランキングで注目すべきは、投票者の匿名性と独立性です。日本評議委員長(日本代表)で、フードジャーナリストの中村孝則さんによると…。
©︎The World's 50 Best Restaurants
”エレガントでダンディーな海原雄山(美食漫画『美味しんぼ』の登場人物)”こと日本評議委員長の中村孝則さん。福岡の星・福山剛さんの友人です。
「わたしは投票者を任命する権限は持っているものの、各投票者がどのレストランに投票したかを知ることはできません。投票の対象はファインダイニングに限定したものではなく、期間限定のポップアップショップなどを除けば、三つ星レストランからラーメン屋や町中華、スイーツまで、投票者ひとりひとりの、この店が好き!と思う感性に委ねられます。
とりわけ日本では、匿名性を厳格に守っていただいているので、投票者同士がお互いを知ることはなく、運営側が予約困難なレストランの予約を取ったり、資金面でお手伝いをしたりすることも一切ないので、投票者それぞれが独自性を保ち、自由に活動しています」
つまり平たく言うと、これまで自由気ままに世界を飛び回っていた“フーディーズ”といわれるレストラン好きが、渡航が難しくなって日本国内を食べ歩き、日本のレストランのレベルの高さを再認識して、これまで(居住エリア内の最大数は決められていますが、最低数は決められていないため)もしかしたら国外に全振りしていたかもしれない票を日本のレストランに入れた結果、各店が本来持っていた票と合算されて、日本のレストランがジャンプアップした、と想像できます。この文脈に当てはめると、今年は地方のレストランがいくつもランクインしたのも、日本のフーディーズが海外ではなく国内の地方に足を運ぶようになったから、と考えると納得。
RKB毎日放送も会場に。シェフたちのおもしろトークを収録していました。放映が楽しみですね!
アワードは東京・バンコク・マカオのアジア3都市で開催
フィフティーのおもしろさは、ランキング自体のユニークさもさることながら、アワード(授賞式)と称して、世界中のスターシェフとフーディーズを一堂に集めることにあります。ここから国も人種も性別も年齢も料理ジャンルも何もかも超越した新しい出会いが生まれ、それが新しい食文化を創造していくのです。
アジアのベストレストラン50は、2019年3月のマカオ開催を最後に、本格的なアワードを行うことはできませんでしたが(日本だけは2020年、2021年も小規模で開催)、今年は3都市での分散開催というイレギュラーなかたちとはいえ、公式なアワードが開催されました。
東京会場はパレスホテル東京。50ベストトークに登壇した、左から第二部モデレーターの中村孝則さん、第一部モデレーターで公式アンバサダーを務める山田早輝子さん、La Cime・高田裕介さん、里山十帖・桑木野恵子さん、villa aida・小林寛司さん、Florilege・川手寛康さん
東京では、アワードに先駆けて、ガストロノミー界をリードするスター中のスターシェフがステージ上で意見を戦わせる「50ベストトーク」という公式イベントを実施。「サステナビリティ」をテーマにした第一部にはFlorilege・川手寛康さんとvilla aida・小林寛司さん、「クリエイティビティ」をテーマにした第二部にはLa Cime・高田裕介さんと里山十帖・桑木野恵子さんが登壇し、それぞれのフィロソフィを語り合いました。
バンコクの14ハンズディナーに駆けつけたシェフたち。バンコクでLu Du(4位)やNusara(10位)を手がけるThitid 'Ton' Tassanakajohnさん(左から3人め)やKyo Roll Enを手がけるパティシエのDej Kewkachaさん(中央)は東京のイベントに出演したこともあり日本でも人気
三都市でもっとも華々しいリアルイベントを開催したバンコクには、シンガポールやマレーシア、スリランカ、フィリピンなど7カ国からスターシェフが集まりました。東南アジア北部評議委員長のLitti Kewkachaさんは「アワード前夜には、タイ国内に加えて、シンガポールからまで協力を得て、タイとシンガポールのスターシェフ7人による14ハンズディナーを開催し、大成功を収めました」と話します。
中国本土の状況も踏まえて、渡航制限レベルが再び引き上げられたマカオでは、対策を万全に取りながら、最少人数で静かなアワードが開催されたそうです。
©︎Litti Kewkacha
東南アジア北部評議委員長のLitti Kewkachaさん(右)とランクインしたシェフたち
アジアのトレンドは“イノベーティブ”から“幸せなレストラン”へ
バンコクやマカオとは異なり、国や自治体のサポートが何もなかった日本では、受賞したシェフたちまで全員が平等に会費を負担するという、世界的にも非常にユニークなかたちでアフターパーティが開かれました。それでもようやくまん延防止等重点措置が解除され、シェフ仲間が集まれたとあって、受賞したシェフたちはみんな嬉しそう。
アワード用の正装をさっさと脱ぎ捨て、厨房に立つvilla aida・小林寛司さん(左)とLa Cime・高田裕介さん
パーティのハイライトは、villa aida・小林寛司さんの演出で行われたアワードシェフたちによるサプライズのライブクッキング。日本を代表するスターシェフたちが料理を振る舞うとあって、参加者は大盛り上がり。その場で余っていた、ロスフードになるかもしれない食材を使い、急きょ、14位 villa aida対43位 cenciのパスタ対決となりました。「事前打ち合わせの一切ないアドリブでも、おいしいものをつくれるところを見ていただきたい」とcenci・坂本さん。アシストにLa Cime・高田裕介さんと里山十帖・桑木野恵子さんが入るという豪華さです。我らが福山さんは味見係りとして大活躍(←え?)しました。
「また無茶ぶりを〜」と言いながら楽しそうに料理するcenci・坂本健さん
ダブル受賞したご自身が主役として祝われるべき席にも関わらず、「みんながおいしそうに食べて、喜んでくれてよかった」と、仕かけ人のvilla aida・小林寛司さん。
ここ数年、料理に対する姿勢が変わりつつあると話します。「以前は、日々状態が変わる畑の野菜を、どう洗練させてガストロノミーへと昇華するか、クリエイションを中心に考えていました。今は、料理をさらに高みへと引き上げたい、唯一無二のオリジナリティとクリエイティビティを追求したいという思いと共に、遠くからわざわざ来てくれる人たちが、僕たちが育てた野菜を食べて健康になってほしい。自然を感じながらくつろいだ時間を過ごすことで、心身ともリラックスして、幸せな体験をみんなで共有してほしい。そんな思いを込めて料理に向き合っています」
©︎Amanda Kho
香港・マカオ・台湾評議委員長のSusan Jungさん
そう。これからのレストランは“幸せ”がキーワード。香港・マカオ・台湾評議委員長のSusan Jungさんは言います。「こういうコンペティションは、どの店が上位になるか競争しているイメージがあるかもしれません。でも本質は、料理のおいしさは大前提として、そのうえで訪れた人が幸せになれる場所が選ばれています。1位になった傳は、チームに愛犬のPuchi.Jrまでもが加わって、ゲストを幸せにしてくれるお店です。リストに入っていてもいなくても、幸せを提供してくれる店こそがいいレストランです」
©︎villa aida・小林寛司
九州の太陽・福山剛さんは、このメモリアルな1日をどこでどう過ごしたのか。ここではワンシーンをチラ見せ。気になる
密着レポートは近日UMAGAにて公開予定です!
このご意見、La Maison de la Nature Gohに行ったことがある人なら、ものっすご〜く同意していただけるのではないでしょうか。福山さんのおいしい料理を食べながら、あの笑顔を見てるだけで癒されて幸せ♡
今年ランクインした日本のレストラン11軒は、いわばあなたの幸せ請負人。幸せな時間を楽しみに、ぜひ訪れてみてください。
文・写真(特記以外)/江藤詩文
©︎The World's 50 Best Restaurants