住む憧れ「グランドメゾン」の人気の理由。
ちゃんぽんとは愛の塊——ぼくにとってのちゃんぽんとは、つまりそんな存在です。長崎生まれのちゃんぽんは、今やそのご当地にとどまらず、九州、そして全国に広がっています。ちゃんぽんを愛してやまないヌードルライター山田が、ちゃんぽん探訪記を綴ります。まずは福岡編。
九州のちゃんぽん文化を掘り下げる
幼い頃、父が製麺所を営んでいたこともあり、「麺の研究だ」といってよく連れ出されていました。強く印象に残っているのが「ちゃんぽん」。ちゃんぽんとは、と説明しなくても、多くの人が「ああ、あの具沢山の麺料理か」「長崎名物のあれだよね」とイメージできると思います。
その発祥は、長崎にある老舗中華料理店「四海樓(しかいろう)」。この店の創業者である陳平順さんが中国から日本へやってきた留学生たちに安くて栄養たっぷりの食事をとってほしいという思いから、中国・福建料理の一つ「湯肉絲麺(とんにいしいめん)」をアレンジし、「支那饂飩(しなうどん)」というメニューを考案。これが今に伝わるちゃんぽんのルーツです。
安くて、栄養たっぷりの料理を———言葉にすると実に端的ですが、これをいざ、実現させようとすると大変なこと。栄養たっぷりイコール食材が豊富ですから、これを低価格で用意するというのは“愛”でしかありません。
実際、ぼくはなんか疲れたなあという日、ちゃんぽんを選んでいる比率がとても高い。麺という主食があり、スープという汁物があり、具材というおかずがあり、つまり、丼のなかに全てが詰まっているんです。麺、スープ、具材それぞれの魅力を互いに引き立てあい、渾然一体となって完璧なる料理になっているんですから、もはや究極の食べ物にしか見えない。
「餃子 一鉄」のちゃんぽん。具沢山でボリューム満点な、まさに模範的なちゃんぽんです。ちなみに拙著「ヌードルライター 秘蔵の一杯」の表紙を飾ったのも、一鉄さんのちゃんぽんでした。
愛の塊、ちゃんぽん。
お店側の観点からすると、ちゃんぽんって決して効率が良い料理ではないと思うんです。調理の手順を簡単に説明すると、注文が入るとまずフライパンで肉や魚介、野菜を炒め、そこにスープを投入して加熱する。ひと煮立ちしたらいよいよ麺を入れ、さらに煮込む。この調理工程は一度スタートすると、途中で追加注文があったとしても、止められません。今、目の前にあるちゃんぽんを作り終えてから、再び一から調理が始まります。一度に作れる量も中華鍋に入るだけ。5杯くらいが限界ではないでしょうか。一部のチェーン店を除き、限られた時間の中で大量の注文をさばくという、そういうスタイルの店には不向きな料理なんです。そういえばちゃんぽんを名物としているお店の店主って、商売人というよりも、愛想が良くって人情味溢れる人物ばかりが思い浮かびます。
そんな愛の塊、ちゃんぽん。父に連れられて食べに行っていた頃はそんなことを知らずに、意識せずに食べていましたが、連続で食べても全然、嫌じゃなかったんですよね。普通、嫌になりますよね、一週間、毎日ちゃんぽんだとすると。ところが、それがなかったんです。
よくよく考えてみると、ちゃんぽんだって店ごとに麺、スープ、具材、全てが違います。別物なんです。実家のある福岡県宗像市を中心に巡った幼少期のちゃんぽん行脚で思い出されるのも、一杯ごとに違う表情を見せるディープな麺の世界。その体験が本場・長崎でなく、福岡で得られたんですから、いよいよちゃんぽんの魅力、深遠なりとなるわけです。
「元祖ぴかいち」のちゃんぽん。生麺が見せる、町中華の王道的なちゃんぽんといえます。ここの辛子高菜が絶品で、ちゃんぽんにインするのもおすすめです。
山田的、福岡県内のおすすめちゃんぽん4選
せっかくなので、福岡のちゃんぽんだけでもこれだけバリエーションに富んでいるということをちらりと紹介したいと思います。
一般的なちゃんぽんのスープは鶏ガラ主体、もしくは鶏ガラと豚骨のミックスで出汁をとるケースが多い中、鶏白湯という鶏ガラを白濁するまで煮込んでとったスープでまろやかに仕上げるのが糸島にある「かいの」。いわゆる郊外の店ですが、しっかり地元客の心を掴んでいます。
一方、福岡は豚骨ラーメンの聖地ですから、当然、豚骨スープオンリーでちゃんぽんを作る店もあります。その一つが「餃子 一鉄」。近年、再開発が進んでいる六本松エリアの路地裏にあり、屋号のとおり、餃子も看板メニューです。
白濁した鶏白湯スープが神々しさすら感じさせる「かいの」のちゃんぽん。唐揚げも最高なので、ぜひセットで食べてみて。
ちゃんぽんは多種多彩
麺においても店ごとの、そして地域の特性及び特徴が見受けられます。多くのちゃんぽん提供店ではあらかじめ茹でておいた麺を使っていますが、茹でたての、プリッとした食感の生麺で提供している店があるんです。
博多駅前にある「元祖ぴかいち」では、元々茹で置きのちゃんぽん麺を使っていましたが、店を改装する際に「麺まで納得のいくものを!」という先代の強い思いもあって生麺に切り替えました。
福岡県の北を見れば、蒸し麺が特徴のご当地麺「戸畑ちゃんぽん」があります。その代表格として知られるのが、戸畑の老舗「福龍」です。プチッと歯切れの良い食感でサクサクと食べ進められる蒸し麺ちゃんぽんは、一度食べると夢中になること請け合い。
長崎を起点にちゃんぽん文化が広がる九州にはまだまだいろんなちゃんぽんが存在します。長〜くなりますので、その話は、また別の機会に。
「福龍」のちゃんぽん。蒸し麺の食感がクセになりますよ。焼きそば、ラーメンも美味しい、戸畑の名店です。
紹介したお店はこちら
店名
餃子 一鉄
住所
福岡県福岡市中央区六本松2-3-21
電話番号
092-725-8210
店名
元祖ぴかいち
住所
福岡県福岡市博多区博多駅前3-9-5 チサンマンション1F
電話番号
092-441-3611
店名
かいの 糸島本店
住所
福岡県糸島市二丈武118-29
電話番号
092-325-2355
店名
戸畑チャンポン福龍
住所
福岡県北九州市戸畑区中原西1-1-36
電話番号
093-871-7091
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