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『グリーン・ナイト』監督 デヴィッド・ロウリー
映画監督・デヴィッド・ロウリー。遅ればせながらその名前をはじめて目にしたのは、映画批評界の重鎮、蓮實重彦が2020年に上梓した『見るレッスン 映画史特別講義』においてだった。元東京大学総長にして、フランス文学・フローベール研究の世界的権威であり、映画批評家としても大きな影響力を持つ蓮實氏が、めずらしく新書を出したと話題のなった書物の中で、デヴィッド・ロウリーは、こう紹介されている。
なぜ私がデヴィッド・ロウリーに執着するかというと、彼は明らかにアメリカ映画を刷新してくれたからです。どのように変えたかというと、例え ば『セインツ』は、話としてはよくある題材ですが、それを九十数分で堂々と描き切っており、時間の設定がまことに秀逸なのです。それから、ロマンティックでありながらセンチメンタルにならない。しかも、ショットがことごとく決まっている。これだけの人材は最近のアメリカ映画にはいなかったというのが、『セインツ』を見たときの強い印象です。〈中略〉ルーカスはともかく、コッポラやスピルバーグ、その次のトニー・スコットと言った人たちの世代を超えて、全く新鮮なアメリカ映画を撮ってくれたと深く感動しました。
そのデヴィッド・ロウリー監督の新作『グリーン・ナイ ト』が公開されている。
『セインツ-約束の果て-』(2013年)、『ア・ゴースト・ストーリー』(2017年)、『さらば愛しきアウトロー』(2018年)などで名を馳せた監督が次に選んだ題材は、なんとアーサー王伝説。壮大なスケールで描くダーク・ファンタジーだという。
『グリーン・ナイト』の物語は、中世イギリスで書かれた作者不詳の作「サー・ガウェインと緑の騎士」(14世紀末)を基にされている。数あるアーサー王物語の中でも傑作との呼び声が高いこの物語は、過去に「ホビット」や「指輪物語」のJ.R.R.トールキン「ナルニア国物語」のC.S.ルイス、最近ではカズオ・イシグロの「忘れられた巨人」など数多くの作家のインスピレーションとなってきた。『グリーン・ナイト』はそんな珠玉の中世文学の世界を継承しながらデヴィッド・ロウリーによって力強いオリジナル脚本として仕上げられた。
物語の主人公は、まだ正式な騎士ではないアー サー王の甥であるサー・ガウェイン。彼には人々に語られる英雄譚もなく、ただ空虚で怠惰な日々を送っていた。クリスマスの日。アーサー王の宮殿では、円卓の騎士たちが集う宴が開かれている。その最中、異様な風貌の緑の騎士が現れ、“クリスマスの遊び事”と称した、恐ろしい首切りゲームを提案する。その挑発に乗ったガウェインは、彼の首を一振りで斬り落とす。
しかし、緑の騎士は転がる首を堂々と自身で拾い上げると、「1年後のクリスマスに私を捜し出し、ひざまずいて、私からの一撃を受けるのだ」と言い残し、馬で走り去るのだった。それは、ガウェインにとって、呪いと厳しい試練の始まりだった。
1年後、ガウェインは約束を果たすべく、未知なる世界へと旅立ってゆく。気が触れた盗賊、彷徨う巨人、言葉を話すキツネ…生きている者、死んでいる者、そして人間ですらない者たちが次々に現れ、彼を緑の騎士のもとへと導いてゆく。
『グリーン・ナイト』は、徐々に奇妙さを増す状況の中で自分の価値を証明するために冒険の旅へと出発する若い英雄を描いており、時代を超越した物語である。ロウリーは語る。「この物語は、14世紀に書かれたものですが完全に現代の物語だと感じます。つまり、驚くことに1,000年近くも“今っぽい”と感じられる話なのです。本作はその文章を映画化した作品ですが、原典との対話でもあります。物語に含まれる価値観を反映したものであり、且つ、それらの価値観をどのように文脈に当てはめて解釈を可能にすという問いでもあるのです。」
現代最高の監督の一人であるデヴィッド・ロウリーが、圧倒的なスケールで描いた『グリーン・ナイト』。
14世紀に生まれ、読み受け継がれてきた物語に潜む“今”をつかんだ時、どんな興奮が待ち受けているのか期待せずにはいられない。
Information
タイトル
『グリーン・ナイト』
監督・脚本・編集
デヴィッド・ロウリー
撮影
アンドリュー・ドロス・パレルモ
美術
ジェイド・ヒーリー
衣装
マウゴシャ・トゥルジャンスカ
音楽
ダニエル・ハート
出演
デヴ・パテル、アリシア・ヴィキャンデル、ジョエル・エドガートン、サリタ・チョウドリー、ショーン・ハリス、ケイト・ディッキー、バリー・コーガン、ラルフ・アイネソン
公開
TOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー中
製作国、他
2021年 / アメリカ・カナダ・アイルランド
英語 / 130分 / カラー / アメリカンビスタ / 5.1ch / 原題:The Green Knight / 日本語字幕:松浦美奈 / 字幕監修:岡本広毅 / G/配給:トランスフォー マー / 提供:トランスフォーマー、Filmarks、スカーレット