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「ハレの日」には背筋を伸ばして日本料理の真髄を味わいたい | 食の専門サイト“UMAGA”セレクト

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muto編集部

福岡のうまいものを探求するWEBマガジン「UMAGA」は、福岡のグルメたちを唸らせる記事が毎日更新されています。その中から、muto読者にオススメの情報をセレクトして定期的にお伝えします。今回は、日本料理の伝統と革新を堪能できる和のお店2店です。

古き良き伝統・文化を語り継ぐ、二つ星日本料理店の矜持 『御料理 古川』

ただの食事の場ではない、もっと深い価値が日本料理店にはある──。「御料理 古川」を訪ねるたび、そんなことを感じます。開業わずか1年でミシュラン二つ星を獲得し、一躍福岡グルメの最前線に躍り出た実力店。その歩みを支えるのは、日本に息づく伝統・文化や、そこに関わる人々への敬意です。

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中へ入ると一転、気さくな雰囲気と、店主・古川誠さんの笑顔にホッとします。古川さんは大阪の名店「味吉兆」で修業し、「味吉兆 ぶんぶ庵」では料理長を務めた熟練職人。2018年に故郷の福岡で開業すると、料理を通して「日本の“良きもの”を伝えること」をテーマに掲げました。「それは先に述べた伝統・文化であり、優れた食材や器などの工芸品であり、それらを届けて下さる生産者・卸業者・作家さんたちの努力です」。

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店主・古川誠さん

料理は月替わりで、今宵頼んだのは16,500円コース(10品前後)です。1品目の突き出しは、なんと1930年代のバカラに盛ったぬた和え。加布里産のハマグリや赤貝の程よい塩気が、橙の酸味と爽やかに調和しています。

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続いては、タラの白子のみぞれ餡に、金時人参と柚子のあられを浮かべた椀もの。葛仕立てでトロリとした出汁の、香り高さと舌触りは実に風雅でした。唇に心地よい器は雪月花と呼ばれる輪島漆器です。

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そしてこれが、「古川」のシンボルとも言える八寸です(写真は3人前)。この日は(左から)黒毛和牛のしぐれ煮、いなり寿司、みかん味醂でコクを出した玉子焼き、甘めに炊いた空豆、骨まで食べられるイワシ、フキノトウの赤味噌田楽、クレソンとあまおうの白和え。一つひとつの味が揺るぎなくも繊細で、旬素材の多彩な香りも印象的でした。

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あえてシンボルと呼んだのは、古川さんが特に多くの“ストーリー”を八寸に盛りこむから。例えばいなり寿司は「田畑を実らせるため、神様と伏見稲荷に降りたキツネの大好物」だし、イワシや一緒に添えたヒイラギは「節分の鬼が昔から嫌うもの」であり、そこから「京都ではこの2つを一緒に結び、玄関に鬼除けとして飾るんですよ」というトリビアにも発展します。そう、これぞ古川さんの「伝えたい」を凝縮したメイン料理なのです。

「御料理 古川」の詳しい情報はコチラ

技と心に磨かれた「綺麗」を感じる、平尾の懐石料理店 『一本木 石橋』

「一本木 石橋」を象徴する言葉を聞かれたら、僕は「綺麗」と答えます。料理や店構えもそうですが、何よりも店主・石橋康孝さんの料理に対する姿勢が「綺麗」なのです。2018年の開店以来、予約が難しくなる一方の懐石料理店。数奇屋造りの一軒家はこの日も満席でした。

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今宵の食事はカウンターですが、2階の個室もおすすめ。嘉麻市の職人集団「久衛(ひさもり)組」が手がけた、趣ある空間でゆったり食事が楽しめます。

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注文したのは15,000円のおまかせで、石橋さんが「シュッ、シュッ」と一心に削る節の音が開幕の合図です。

枕崎産の荒節・枯れ節・メジマグロ節の3種を使い分け、料理に合わせた出汁を引くのがこの店の流儀。「私は本物の食材に触れる喜びと、出来たてを味わう幸せを大事にしています」と石橋さん。「毎回直前に節を削るのもこれが理由なのです」
そんな生真面目な店主の理念は、京都の「高台寺 和久傳(わくでん)」、東京の寿司店「海味(うみ)」、伊勢の「懐石かみむら」など錚々たる修行先で磨かれました。そこから連なる技と心は、はたしてどんな愉悦を結ぶのでしょう。

先付は、北海道産バフンウニの銀杏醤油がけ。旬真っ只中の銀杏とウニの絡み合う香りは絶品で、とろける舌触りも文句なく、一品目から引き込まれてしまいました。外の気温を考慮して、ほどよい熱々で供する配慮もさすがです。

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続いては、石橋さんがコースのメインに位置づけるお椀。「懐石の命は出汁ですから」と明言するだけに、全霊を傾けた渾身の一杯です。この日の具材である対馬産エボダイとナスのオランダ煮のコクを計算し、枯れ節7:荒節2:鮪節1で仕立てた、淡くさっぱりした味わい。

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琵琶湖産の子持ち鮎には二度驚かされました。みっしり詰まった卵の量と、それがハラリとほどける舌触りが素晴らしいのです。「これほど卵の多い鮎は本当に貴重。京都時代から仲の良い川魚屋さんが卸してくださったんです」。

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そして常連たちを虜にする寿司も、やっぱり磐石のうまさでした。コースで必ず3貫出る寿司は、前述の修行店「海味」譲り。赤酢と米酢を合わせたシャリは懐石を邪魔せぬ柔らかな味です。このコハダも酸味は抑えめで、かつ感涙ものの弾力が引き出されていました。

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「私の料理は引き算なので、SNS映えはしないのですが」と石橋さんが微笑みます。「今後もお客様を楽しませるための努力は惜しみません。苦しいコロナ禍の昨今でも、皆様と元気を分かち合えるような店を作るために。それができたら、私はこの仕事を一生頑張れると思うんです」

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店主・石橋康孝さん

若々しい情熱を瞳に宿し、真っ直ぐそう言い切る石橋さん。お会いするたび、その純粋さ、謙虚さ、愛情に深く打たれます。きっと僕は、そんなところに「石橋」の「綺麗」を見るのでしょう。

「一本木 石橋」の詳しい情報はコチラ

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