商業空間は何の夢を見たか

『商業空間は何の夢を見たか』
著者:三浦展、藤村龍至、南後由和

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リブロプラス 野上由人

バブル前夜、街の賑わいは商業空間が作り出した。商業ビルが都市と広場をつくった時代──。商業は何をつくれたか、つくれなかったか!?カウンターカルチャー、「日本的広場」、コンセプト型建築をテーマに三者が読み解く。

「新しい公共」の構築はいかにして可能か

新所沢パルコの建築には、ミラノのガレリアがモチーフに選ばれ、その空間コンセプトにはなぜか、尼寺やチェーホフが登場した。
だがコンセプトはしばしば「気まぐれ」であり、時代と共に消費され、古びる運命にある。
団塊世代ファミリーの大衆消費の主戦場となった郊外は、都心の商業ビルのようにイメージ先行の虚構だけでは通用しない。
郊外は、カラオケボックス、ユニクロ、家電量販店、ビデオレンタルチェーンなどの実需に基づく新業態を次々に発展させ、都心に攻め寄るほどの大勢力となった。(中略)その勢力を前にしては、尼寺だとかチェーホフだとかいったコンセプトはあまりに力が弱かったのだろう。
所沢は、パルコというよりライオンズのある場所として全国的に認知されていった。【本文より】

パルコ出身のアナリスト・三浦展が、カウンター・カルチャーとしてのパルコをあらためて日本の精神史に位置付け、社会学者の南後由和が、「日本的広場」論の経緯を踏まえた渋谷(パルコ)論を展開し、建築家の藤村龍至が、自身が住んでいた埼玉県所沢市の「新所沢パルコ」を出発点にして西武グループの建築史を振り返る。
まるでパルコが編纂した社史のようにも見えるが、そうではない。
60年代以降の日本における都市=商業史を語るとき、「コンセプトの時代」をリードしたパルコの仕事に着目するのは当然だといえる。
80年代のセゾングループが盛況だった時代を、経済史的・文化史的に記録する文献は既に多い。
この本のおもしろさは、その前史と後史、つまりパルコに流れ込んだ思想の源流と、現在の都市=商業が直面している状況を繋げて論じている点にある。

商業空間は何の夢を見たか

例えば藤村龍至は、モールや駅ビル開発のような商業施設のさらなる巨大化と、それへの抵抗としての「小商い」を現代の商業トレンドとしたうえで、スモールビジネス系の新規参入を継続して担保するためには、そのような生態系の維持をコンセプトとしたグランドデサインが必要だと主張し、その手段としては公的介入も排除しない立場を採る。
南後由和も、物理的な都市空間には容量の限界があるため、市場原理に任せておくと多様性が維持できないことを認め、「新しい公共」の構築を課題として掲げ、同調する。

都市=商業のデザインを支える「コンセプト」とは、私たちの生活空間をどういうものにしたいのか、その設計思想そのものだ。
60年代以降の思想史の末端に、現在の私たちの闘争局面を描き出そうとする本として、むしろ若い世代に薦めたい。

著者プロフィール

三浦展
1958年生まれ。 パルコのマーケティング情報誌『アクロス』編集長、シンクタンク勤務を経て、99年カルチャースタディーズ研究所設立。『昭和の郊外』『東京は郊外から消えていく!』『吉祥寺スタイル』『昭和「娯楽の殿堂」の時代』『新東京風景論』など東京、都市、郊外に関する著書多数。

藤村龍至
1976 年東京生まれ。2008 年東京工業大学大学院博士課程単位取得退学。2005 年より藤村龍至建築設計事務所(現 RFA)主宰。2010 年より東洋大学専任講師。2016 年より東京藝術大学准教授。主な建築作品に「鶴ヶ島太陽光発電所・環境教育施設」(2014)、主な著書に『批判的工学主義の建築』(2014)『プロトタイピング—模型とつぶやき』(2014)

南後由和
明治大学情報コミュニケーション学部 准教授社会学、都市・建築論。
1979年大阪府生まれ東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。主な著書に『ひとり空間の都市論』(ちくま新書、2018)、『商業空間は何の夢を見たか』(共著、平凡社、2016)、『建築の際』(編、平凡社、2015)、『文化人とは何か?』(共編、東京書籍、2010)など。

Information

書籍名

商業空間は何の夢を見たか

著者名

三浦展 藤村龍至 南後由和

出版社

平凡社

価格

2,300円(税別)

発売日

2016年9月

ISBNコード

9784582837391

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