LGBTを読みとく  クィア・スタディーズ入門

「L」「G」「B」「T」
差別解消には「良心」や「道徳」ではなく「知識」が必要だ

公開日

リブロプラス 野上由人

「LGBT」という言葉。それらの言葉ではくくることができない性のかたちがある。「LGBT」を手掛かりとして、多様な性のありかたを知る方法を学ぶための一冊。おなじみリブロ野上さんによる書評です。

『LGBTを読みとく クィア・スタディーズ入門』著者:森山至貴

パートナーと生きているわけではない人は必ず一定数存在します。何もかもをパートナーシップの権利保障の枠内で解決しようとすれば、「独り身」の人の権利が侵害されることになりかねません。そもそも、性的指向や性自認を固定的で永続的なものと前提してしまうことを、クィア・スタディーズは批判してきました。端的に言って、人は変わるし、変わってよいのです。
そのクィア・スタディーズの視座を貫徹するなら、特定のパートナーとの永続的で固定的な関係を前提とする人間観もまた誤りです。もちろん、性的指向にかかわらず多くの人が特定のパートナーとの永続的な関係を望んでいることは確かでしょう。でも、婚姻を含む社会の制度がそれを前提にせず、もっと開かれた人間観に基づく平等なものになりうるのならば、それを拒む必要はありません。 〈本文より〉

Twitterで「90年代に青春を過ごした古株オカマとして、今のLGBTの動きに文句を言いたいことがごまんとある」として、哲学者の千葉雅也が自身のセクシュアリティについてカミングアウトした。
「ゲイの知識人としての役割を果たす必要もある」
「安っぽいフーコーとしての務めをやります」といって闘う相手をこう特定してみせた。
「冷たいノンケ世間と闘うということではない。心優しくLGBTに寄り添う善意と闘うんだ」と。

その千葉雅也も一定の評価をする本書は、社会学者がセクシュアル・マイノリティに関する「知識」を整理しながら「クィア・スタディーズ」と称される新しい学問分野に読者を誘う入門書。

LGBTを読みとく  クィア・スタディーズ入門

その冒頭で、差別解消には「良心」や「道徳」ではなく「知識」が必要だと明記し、自称「いい人」の欺瞞や暴力性に注意を促している点で、千葉雅也の問題認識に近いことが窺える。

「L」「G」「B」「T」やその他のセクシュアル・マイノリティに関する基礎的な情報を簡潔に解説したうえで、フーコー、デリダ、バトラーと連なる哲学史のその先に、クィア・スタディーズの基本概念を取り上げる。

「パフォーマティヴィティ」
「ホモソーシャル」
「ホモフォビア」
「ヘテロセクシズム」
「ヘテロノーマティヴィティ」
「ホモノーマティヴィティ」
「ホモナショナリズム」等々。

現場感覚に支えられた実例紹介と旗幟鮮明な理論解説が読みやすく、初学者にも難しくはない。同時に、「知識」によって啓かれるとはこういうことかと感じさせるだけの専門性も備え、新書一冊ではありながら、学問ならではの刺激がある。
「最初の一冊」としてはもちろんのこと、ある程度の知識もあって性の多様性に「理解ある」と自認している人にこそ、薦めたい。
千葉雅也がこれから繰り広げるであろう論争にも、備えの読書となるはずだ。

このテキストは、2017年10月発刊の雑誌mutoに掲載されたものです。

著者プロフィール

森山 至貴(もりやま のりたか)
社会学者
1982年神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻助教、早稲田大学文学学術院専任講師を経て、現在、同准教授。専門は、社会学、クィア・スタディーズ。著書に『「ゲイコミュニティ」の社会学』(勁草書房)、『LGBTを読みとく―クィア・スタディーズ入門』(ちくま新書)

Information

書籍名

LGBTを読みとく ─クィア・スタディーズ入門

著者名

森山 至貴

出版社

筑摩書房

価格

800円(税別)

発売日

2017年3月

ISBNコード

9784480069436

関連記事