重松清

一緒に立ち止まって考え、並んで歩いてゆく、8つの小さな物語。『きみの町で』著:重松清

公開日

最終更新日:

muto編集部

「小さな小さなお話を、ミロコマチコさんの絵の助けを借りて、一冊の本に編んでもらいました。
 すごくうれしいです。小さなお話でも、深い問いかけを込めたつもりです。
 きみの町と、きみに思いを寄せてほしい遠くの町のお話とを組み合わせました。
 ゆっくり読んでいただければ、と願っています」 重松清

『きみの街で』著:重松清

うまく言い表せないモヤモヤや心地の悪さを口にするのは、何歳になったって勇気がいる。電車で立っているお年寄りに席をゆずりたいけど、どうしても座っていたい時。心の中でごめんなさいと謝り、でも私も同じ乗客なのだから謝る必要はないか、でもでも、と考えてしまう。学校や職場でつい無理をしてふるまってしまうけど、本当は、誰か私のことを気にかけてわかっていてほしい…。自分の中のいろいろな感情がうずまくことや、なかなか答えの出ないことで悩んだり深く考えたりしてしまうのは、大人も子どももきっと同じはずです。

重松清

よいこととわるいことって、なに?いっしょに生きるって、なに?自分って?人生って、なに?重松清さんの著書『きみの町で』には、8つのお話による問いかけが、ミロコマチコさんの絵とともに編まれています。帯には重松さんの言葉で、「きみの町と、きみに思いを寄せてほしい遠くの町のお話とを組み合わせました。ゆっくり読んでいただければ、と願っています」。
ちょうど1年前の今頃は、元旦に起きた地震のことを思うと「あけましておめでとう」なんてとても気持ちよくは言えず、いつも心のどこかにそのことがあって、なんとなく気持ちが晴れませんでした。こんな1年のスタートがありえるのか、と。そして、遠くの国でひどさを増していく争いのことも。でも自分の生活もあるから、と何かに言い訳をするようにしながら、時折思いを寄せる、そんなふうに過ごしていたのを思い出します。この本には3月に起きた地震にまつわるお話もありますが、そこにはわかりやすい結末や教訓があるのではなく、ただそっと私たちの心に余韻を残してくれるような、小さな物語です。

いくら年を重ねても、咀嚼しきれない、ひとことでは言えない感情が減ることはないけれど、「今ね、こんなにぐちゃぐちゃな気持ちなの」と誰かにこぼせること。答えはないけど誰かと分かち合える気持ちがあることを確認できたら、すこしは不安を減らせるのかもしれません。厚い雲に覆われたような気持ちの日も、それでも一人ではないのだと、安心してスタートを切れますように。この本もきっと、名前のない気持ちのそばにいてくれます。

著者:プロフィール

重松清
1963年、岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒。出版社勤務を経て執筆活動に入る。
ライターとして幅広いジャンルで活躍し、1991年に『ビフォア・ラン』で作家デビュー。
1999年『ナイフ』で坪田譲治文学賞、『エイジ』で山本周五郎賞、2001年『ビタミンF』で直木賞、2010年『十字架』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『流星ワゴン』『疾走』『みんなのなやみ』『その日のまえに』『きみの友だち』『青い鳥』『とんび』『希望の地図』『空より高く』『また次の春へ』など多数。

INFORMATION

書名

きみの町で

著者

重松清

出版社

朝日出版社

価格

¥1,430(税込)

ISBN

9784255007182

[テキスト/天野加奈]
1993年大分生まれ。2023年より本屋「文喫 福岡天神」ディレクターとして企画や広報を担当。
大切にしている本は『急に具合が悪くなる』(宮野真生子・磯野真穂 著/晶文社)

関連記事