羽田圭介

芥川賞作家の羽田君、車を買うのにここまで悩むのか!?

公開日

muto編集部

雑誌『週刊プレイボーイ』で2017年から続く人気連載『羽田圭介、クルマを買う。』が、単行本になりました。

『羽田圭介、クルマを買う。』著 : 羽田圭介

「車の購入を検討するようになったのは、ある種の閉塞感が原因だ。」
明確な不満もないのだけど、何か物足りない。そんな状況を打破するべく、新しい世界を見るために車を購入する。その理由は現状の自分にもあてはまるような気がして親近感を覚えてしまった…。

羽田圭介

本書は『週刊プレイボーイ』で2017年からの連載をまとめた作家羽田圭介さんのリアル・ドキュメンタリー。
買うと決めたら運命の一台に巡り合うため、とにかく「出会い」まくる羽田さん。マツダロードスター、スバルインプレッサ、BMW X3、ホンダヴェゼル、トヨタC‐HR、テスラモデルS、ポルシェボクスター、アウディTT、ダイハツタントカスタム…。
外車に憧れを持ちつつも実用的かつ走りの面白さも欲しいという無理難題を解決する車を探し求め、運命の一台に出会うために数十台もの試乗を繰り返す。試乗した車を褒めつつも次から次へとディーラーに足を運ぶ羽田さんの姿は、販売員からすると振り向いてくれそうで振り向いてくれない小悪魔そのもの。特にボルボディーラーにおけるやり取りは秀逸で「どんなに憧れていた車でも、長距離を、長時間乗ると、最初の感動は薄れるだけなんですよ。減点法でしかその車を評価しなくなってしまうんです。…(中略)結婚は勢いだ、みたいな感じで言うが、車選びにおいてもそれは正しい意見だと僕も思う。」妙に納得してしまう。

そして本書の醍醐味でもある、羽田さんの本心を包み隠さず書く試乗レポートがまた面白い。運命の一台を求める羽田さん自身は夢見がちな乙女になるわけでもなく、感情に寄り過ぎず、フラットに試乗した車を分析・評価する。それでも「それぞれの車には、語りにくいがなんだかわからない良さがあったりする。」と前置きしたうえで、そこから逃げずに自ら体感した生きた言葉で表現している。そこに彼の文才と誠実さが垣間みえる。自動車評論に限らず、その「なんだかよくわからない良さ」を表現できることが良い文章、良いコメンテーターの条件なんだとまた一つ発見があった。試乗しながらあーでもないこーでもないと論ずる羽田さんの口ぶりに、こちらもにやにやしながら読み進めてしまう。果たして羽田さんは運命の一台に出会うことができるのか…!ところどころで差し込まれる羽田さんの写真もいい味出しています。

著者プロフィール

羽田圭介
1985年、東京都生まれ。高校在学中の17歲時に「黒冷水」で第40回文藝賞を受賞し、小説家デビュー。明治大学商学部商学科卒。2015年、「スクラップ・アンド・ビルド」で第153回芥川賞を受賞。その他の著書に『走ル』『盗まれた顔』『メタモルフォシス』『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』『成功者K』『ポルシェ太郎』『Phantom』などがある。

INFORMATION

書籍名

『羽田圭介、クルマを買う。』

著者

羽田圭介

出版社

集英社

価格

1,300円(税別)

ISBNコード

9784087808759

この記事の著者について

[テキスト/佐藤弘庸]
1987年札幌生まれ。2009年日本出版販売への就職を機に上京。入社後は紀伊國屋書店を担当。
2011年にリブロプラス出向。2016年より日販グループ書店の営業担当マネージャー。
2022年より文喫事業チームマネージャー兼 文喫福岡天神店 店長。

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