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「いいね!」の元祖!? 285万部突破のベストセラー『サラダ記念日』
そう、35年前の当時、病院の待合室や喫茶店、町の図書館のどこにでも、どの家にも一家に一冊、俵万智さんの肘をついて佇むあの表紙の本があったのです。
その本には、”「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日”以外に、こんな歌が綴ってありました。
寄せ返す波のしぐさの優しさにいつ言われてもいいさようなら (八月の朝)
思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ (八月の朝)
親は子を育ててきたと言うけれど勝手に赤い畑のトマト(橋本高校)
今日までに私がついた嘘なんてどうでもいいよというような海(夏の船)
1987年5月刊行の俵万智さんの歌集『サラダ記念日』(河出書房新社)が、今年で35周年を迎えました。
今では教科書にもその代表歌が掲載される『サラダ記念日』は、当時「一冊で短歌を変えた」といわれるほどの衝撃をもたらし、また一大社会現象をも巻き起こしました。
2022年現在も、NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」に取り上げられ話題になるなど、その歌は時代を超えて愛され続け、累計部数は285万部(単行本403刷・251万5千部/文庫版63刷・33万5千部)を突破しました。
35回目のサラダ記念日にあたり、俵万智さんがメッセージを発表しました。
35回目のサラダ記念日に寄せて 俵万智
「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
歌集『サラダ記念日』のタイトルの元になったこの一首、35年前には、どちらかというと下の句が注目された。丸谷才一先生からは「七月六日は芭蕉の句を踏まえていますね」と感心され、小田島雄志先生には「サラダ記念日は、シェイクスピアからの引用ですね」と喜ばれた。「○○記念日」という語が巷に溢れ、スポーツ紙の見出しにまで躍った。
それが最近では上の句が注目を集め「万智さんは、いいね!の元祖ですね」と言われている。たしかにFacebookやTwitterで「いいね」を見ない日はない。こんなに「いいね」がポピュラーな表現になるとは、35年前には想像もつかないことだった。
時代という波をくぐりながら、多くの読者に出会いながら、短歌は生き続け、新しい輝きをもらうことができる。35年目の『サラダ記念日』は、どんな出会いをしてくれるだろうか。
ちなみにTwitterで「今はいいねの数を競うような風潮があるけれど、これはたった一つのいいねで幸せになれるという歌です」とつぶやいたら、一つどころか18万余りのいいねが付いた。いわゆる万バズというやつだ。SNS全盛の時代ではあるが、みんな、たった一つのいいねの大切さを感じ、求めているんだなあと思った。
サラダ記念日の「これまで」
ベストセラーへの歩み
『サラダ記念日』は、1987年5月に、歌集としては異例の初版8,000部でスタートしました。
24歳の若き才能の出現は「与謝野晶子以来の大型新人類歌人」「天才歌人」と、瞬く間に大きな注目を集め、発売1、2週間のうちにさまざまな新聞や雑誌で取り上げられます。 刊行から2ヶ月後、初めて迎えた7月6日の「サラダ記念日」。 その日、朝日新聞の「天声人語」で取り上げられたこともあり、出版社の営業部には1日だけで約1,500本もの電話注文が殺到。その後、毎週8~20万部の重版を繰り返し、刊行3ヶ月目の8月上旬には発行部数100万部、7ヶ月目の12月下旬には200万部を突破し、1987年度ベストセラーランキングの第1位に輝きました。
同年の新語・流行語大賞「新語部門・表現賞」を受賞し、『サラダ記念日』が一大社会現象にまでなった時、俵万智さんは高校の国語科教師でした。観光バスが俵さんの勤務する高校の前でスピードを落として案内をしていたというエピソードからも、当時の熱狂ぶりがうかがわれます。
英訳にもなった『サラダ記念日』
そんなベストセラーとなった『サラダ記念日』は、英訳でも出版されました。
新装改題版『英語対訳で読むサラダ記念日』(2017年刊)
”「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日” が英語になると、
Because you told me,
“Yes, that tasted pretty good,”
July the Sixth
shall be from this day forward
Salad Anniversary.
と、訳されます。
俵万智さんと『サラダ記念日』の「これから」
2021年、俵万智さんは第6歌集『未来のサイズ』(KADOKAWA)で歌壇の最高峰とされる第55回迢空(ちょうくう)賞を受賞(この作品で第36回詩歌文学館賞 短歌部門も受賞)。また翌2022年には「現代短歌の魅力を伝え、すそ野を広げた創作活動」に対し、2021年度朝日賞を受賞しました。
俵さんは、短歌のもつ可能性を自身の創作で広げ続けるとともに、今でもさまざまな賞の選考委員や新聞歌壇の選者などを通して、 短歌の魅力を伝える活動を続けています。
「ホスト歌会」「アイドル歌会」や「牧水・短歌甲子園」などを通して、短歌を身近なものに感じた人も多いのではないでしょうか。
写真 : 上村明彦
俵万智
1962年、大阪府生まれ。1985年、早稲田大学第一文学部卒業。
1986年、「八月の朝」で第32回角川短歌賞受賞。1987年、第1歌集『サラダ記念日』を刊行、翌年同歌集で第32回現代歌人協会賞受賞。他の歌集に『かぜのてのひら』『チョコレート革命』『プーさんの鼻』 (第11回若山牧水賞)『オレがマリオ』など。評論に『愛する源氏物語』(第14回紫式部文学賞)『牧水の恋』(第29 回宮日出版文化賞特別大賞)など。2021年、第6歌集『未来のサイズ』で迢空賞受賞。
この歌集を今読むと、懐かしさとともに、長い間忘れていたままだった小さな感情が、いくつもの波のように胸に打ち寄せてきます。
あらためて名著です。祝!35周年。
オーディオブック
タイトル
サラダ記念日
著者
俵万智
出版社
河出書房新社
ナレーター
沢井真知
配信開始
7月12日(火)より
AmazonオーディオブックAudible (オーディブル)
書誌情報1: 新装版
書名
サラダ記念日(新装版)
著者
俵万智
仕様
46判上製/192ページ
発売日
2016年7月6日
定価
1,122円(本体1,020円)
ISBN
978-4-309-02488-2
装丁
菊池信義
書誌情報2 : 文庫
書名
サラダ記念日(河出文庫)
著者
俵万智
仕様
文庫判/208ページ
発売日
1989年10月4日
定価
528円(本体480円)
ISBN
978-4-309-40249-9
カバーデザイン
菊池信義