住む憧れ「グランドメゾン」の人気の理由。
2010年代のアメリカのポップ・カルチャーは、歴史的に何度目かのピークを迎えた。インターネットの普及は世界との距離を縮めるものだったはずが、日本での海外のポップ・カルチャー需要は、言語の壁、批評の不足などによって、後ろ向きのノスタルジーや無関心を促進させるだけだった。
2010s/著者:宇野維正・田中宗一郎
2020年になったということは当然、2010年代が終わったということである。
2010年代とは、いかなる時代だったのだろうか。
単純な事実として、2010年代とは世界的にみてほぼ「リーマンショック以後」の10年であり、重ねて日本においては「3.11以後」の10年と言うことができるだろう。アメリカではオバマからトランプへ、日本では民主党から安倍自民党への政権交代があった。
傾向として、ポピュリズムの台頭を指摘する声もある。
この時代の音楽や映画、ポップカルチャーの変化と隆盛を記録することが本書の主題だ。
著者の一人、宇野維正には、最もCDが売れた年に焦点を当てた著書『1998年の宇多田ヒカル』がある。
CD市場は、この年をピークに縮小を始めた。
ちなみに出版市場のピークは1996年。
言うまでもなく、インターネット元年と言われた1995年を境に、私たちの生活様式は不可逆的に変化する。
90年代後半から2000年代にかけて、旧式メディアの撤退戦が多方面で激化し、代わりに新しいビジネスが登場した。
初代iPhoneの発売は2007年で、2008年にはTwitterとFacebookの日本語版が登場している。2010年代とは、SNSの時代でもある。
CDが売れなくなった音楽業界は、モノ消費からコト消費へ、つまりCD販売から、定額制のストリーミングサービスとフェスやライブの興行収入へ、主戦場を変えた。
リスナーにとっては、新しい音楽が安く聴けるようになった。
また、インターネット上の配信だから、ミュージシャンにとっても、作品を流通させやすくなった。
CDショップの店頭争奪で宣伝費を大量投入するようなスタイルは、過去のものになった。
音楽市場の流通革命は、業界内の力関係を大きく変えた。
そのような変化を、誰がリードしたのか、象徴的なアーティストは誰だったかを具体的に追いかける本書は、2010年代のポップカルチャーに完全に乗り遅れてしまった人にこそ有用性がある。
著者の一人、田中宗一郎は、自身が編集長を務めた音楽誌『SNOOZER』を2011年に終わらせて出版から撤退してしまったが、この本を作ることで、読者との間の空白の10年を辛うじて埋めようとしているようにも読める。
さて、2020年。
新型コロナウイルスの流行により、2010年代に完成したかに見えた、コト消費中心の音楽ビジネスは危機的状況に陥っている。
2020年代は、早々に「コロナ以後」の時代として語られるだろう。
私たちは何を望むのか。
混乱の中でこそ、大事なことは言葉にしておいたほうがいい。
本書の提示する歴史観が大いに参考になるはずだ。
著者プロフィール
宇野維正
1970年、東京都生まれ。映画・音楽ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌の編集部を経て、2008年に独立。著書に『1998年の宇多田ヒカル』(新潮新書)、『くるりのこと』(くるりとの共著、新潮文庫)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(レジーとの共著、ソル・メディア)がある。
田中宗一郎
1963年、大阪市生まれ。編集者、DJ、音楽評論家。広告代理店勤務、音楽誌編集を経て、1996年から雑誌「スヌーザー」を創刊準備、15年間編集長を務める。2020年1月現在は、合同会社ザ・サイン・ファクトリーのクリエイティヴ・ディレクターとして、記事コンテンツ、音声コンテンツをいくつものメディアで制作。
インフォメーション
書籍名
2010s
著者名
宇野維正、田中宗一郎
価格
¥1,700(税別)
出版社
新潮社
発売日
2020年1月
ISBNコード
9784103531319