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「憲法9条とわれらが日本」
日本国憲法が、占領軍がいて日本が主権をもっていない時に創られたことは確かである。
しかし、そのことは重要ではない。それよりも驚異的なことは、九条の文字通りの内容は、世界史に類例がなく、とうてい普通の国家の憲法の条項とは思えないことだ。
また、自衛隊があり日米安保条約があり、九条が字義通りに実行されているようには見えないこと、憲法を日本に与えたとされる「アメリカ」でさえも
今では日本の憲法の九条がない方がよいと思っていること。
それなのに日本人はそうせず、あるいはそうすることができず、九条に執着し、同じような議論を繰り返してきたのだ。【本文より】
2016年は、護憲派が「国会の3分の1」の生命線をついに失った年として戦後政治史に記録されるだろう。
敗戦から71年が経ち、「反戦平和」の結束力は、いよいよ緩んでしまった。
無論、憲法9条に限れば、与党内にも改正に反対する議員がいるだろうし、そもそも、どのように改正するのか議論が煮詰まっているわけでもない。安心したまえ、という声が、護憲的立場からも聞こえてくる。
それでも、憲法改正手続のハードルは、ひとつ飛び越えられた。仮に9条が議論の対象となったとき、自分の意見はまとまっているか。
根源的に考えてみたい人のために、良質な知識人による刺激的な論考が(まとめて4つも)示された。
法哲学者の井上達夫は、リベラリストの立場から、「9条削除論」を唱える。憲法の厳格解釈を前提として、基本的な安全保障政策を憲法から切り離し、民主的決定に委ねると同時に、戦力濫用を防ぐための統制規範を新たに制定しようとの提案で、その統制規範として徴兵制が挙げられる。徴兵制には政府の無責任な好戦的政策を抑止する効果があるとの立場だ。
文芸評論家の加藤典洋は、自衛隊を国土防衛と国連協力の2つに分けて改組したうえで憲法上の組織とする改憲案(「新9条論」)を提起する。同時に治安出動の禁止、非核三原則、米軍基地の撤廃も憲法条項とする。
保守主義を標榜する政治思想史研究者・中島岳志は、前文で絶対平和主義を掲げつつ、9条では自衛隊の存在を明記して、その権限範囲を明確に定めるべきだと主張する。
そして、社会学者の大澤真幸は、絶対平和主義条項としての9条を遵守する立場を表明し、加えて、国際紛争を解決するための方策として、積極的中立主義と国連改革を提案する。
いずれも、学問的・思想的な背景を持つシリアスな提案であり、単なる思いつきでないことは読めばわかる。
しかも、真摯に「平和」を希求する立場からの提言であって、平和主義者を敵に回すものではない。
平和主義=護憲ではない、様々な可能性が示され、思考を深める契機となる。平和主義者を自認する方にこそ、薦めたい。
著者プロフィール
大澤真幸
1958年長野県松本市生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。社会学博士。千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。現在、月刊個人思想誌『大澤真幸THINKING「O」』刊行中、「群像」誌上で評論「〈世界史〉の哲学」を連載中。
井上達夫
77年東京大学法学部卒業。東大助手、千葉大学助教授などを経て91年に東京大学助教授に転任、95年より東京大学法学政治学研究科教授。20年東京大学定年退職、名誉教授となる。近著に『立憲主義という企て』、『生ける世界の法と哲学――ある反時代的精神の履歴書』『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください――井上達夫の法哲学入門』など。
中島岳志
1975年大阪府生まれ。大阪外国語大学卒業。京都大学大学院博士課程修了。北海道大学大学院准教授を経て、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専攻は南アジア地域研究、近代日本政治思想。2005年『中村屋のボース』で大佛次郎論壇賞、アジア・太平洋賞大賞受賞。著書『親鸞と日本主義』『超国家主義』他。
(井上達夫、加藤典洋、中島岳志)