【muto40号】福岡から有田へ、非日常に浸る一泊二日の旅【器編】

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muto編集部

やきものの町として近年では海外からも多くの人が訪れる佐賀県有田町。町を象徴する「有田焼」は日本最古の磁器の一つで、その歴史は400余年を誇る。また町には江戸時代から続く風格ある建物や登り窯を築くために用いた耐火レンガの廃材などで作られたトンバイ塀など当時の面影を残す建造物が点在。美しいやきものと一緒に、風情のある町並みも楽しむことができる。そんな歴史を辿る有田で、非日常を味わう一泊二日のショートトリップを体験する特集。今回は器にフォーカスし、有田の魅力をお届け。

やきものの歴史と文化が調和する有田

やきものの産地で有名な有田町は佐賀県の西部にあり、福岡から車で1時間30分とショートトリップするには最適な距離に位置している。有田が磁器の生産を始めたのは1600年代初頭と言われ、朝鮮人陶工である李参平公が有田の窯業繁栄の礎を築いたのがその始まり。1630年前後には泉山(泉山磁石場)で良質な陶石が豊富に発見されたことで、本格的な産業的磁器生産体制が確立し、その伝統が現代まで連綿と受け継がれている。

17世紀後半になると有田焼は海外輸出を通じて世界中に知られることになり、有田は世界磁器生産の中核地となっていた。その繁栄の様子は伝統的建造物に指定された町家が軒を並べる、内山地区の町並みからも窺うことができる。

やきものの町・有田には現在も100以上の窯元があり、400余年続く伝統的な製法を今に伝えている。また、「今右衛門窯」「柿右衛門窯」「源右衛門窯」「辻精磁社」といった江戸期から続く窯元が現存していることも有田の特徴の一つ。それぞれの窯元で受け継がれる技術はどれも個性的で、現代においてもその輝きは色褪せない。また人間国宝・井上萬二氏が開いた「井上萬二窯」など戦後誕生した窯元も多数存在する。時代やライフスタイルの変化によって変化を遂げる有田焼は、今もなお日本の家庭に彩りを与える存在として愛され続けているのだ。

有田の魅力はやきものだけにとどまらない。「ありたどり」や「ごどうふ」といった有田ならではの食材があったり、温泉宿があったりと実は観光資源がたくさん集まっている。そんな魅力溢れる有田をそぞろ歩いてみた。

源右衛門窯
源右衛門窯が築窯したのは今から260年以上前と伝わる。「古伊万里の心」をテーマに、江戸・明治・大正・昭和・平成・令和と時代を越えて、熟練陶工の手技(てわざ)による昔ながらの“やきものづくり”の伝統を継承。ろくろ、下絵付け、施釉、本窯、上絵付けから上絵窯にいたる工程で、熟達した各分野の専門陶工たちが心を込めて作業している。現在は、本物の「古伊万里」を創った江戸陶工の精神の高みと手技、そして六代・源右衛門の遺志を受け継ぎ、時代と暮らしを直視した磁器の機能美を追求。日常食器からインテリア・工芸品まで幅広い分野の新作を開発しつつ、他社とのコラボや新分野にもチャレンジしている。

柿右衛門窯
柿右衛門作品の特徴の一つ「濁手素地」は1670年代に誕生。江戸中期に「金襴手様式」が広まり中断するが、昭和に十二代と十三代が復元に成功し、1971年「柿右衛門製陶技術保存会」設立を機に国の重要無形文化財総合指定を受ける。現在は十五代柿右衛門が伝統を守りつつ進化を続けている。

今右衛門窯
今泉今右衛門家は江戸期より代々、鍋島藩の御用赤絵師として色鍋島の制作に貢献した。明治以降、十代今右衛門より一貫した制作を始め、現在十四代は重要無形文化財の色絵磁器保持者として、新しい品格ある色鍋島の世界を追求している。

井上萬二窯
井上萬二窯は、白磁を追及する重要無形文化財指定の陶芸家・井上萬二が佐賀県有田町に開いた窯元。400年にも及ぶ有田焼の伝統を基に、ろくろ技術に特化した作陶スタイルと天然の上質な陶石を使用した白磁の特徴を活かした作品を中心に展開している。



新旧が切磋琢磨するやきものギャラリー

有田町には新旧合わせて100軒以上の窯元が集まり、それぞれでオリジナリティ溢れるやきものが作られている。有田焼は伝統的な分業で作られていて、成形、素焼き、文様の線を描く「線描き」と線の中を塗る「濃み(だみ)」を行う下絵付け、「釉薬」をかける施釉(せゆう)、1300度ほどの高温で焼き上げる本焼成、本焼成が終わった製品に赤・緑・黄・金など、藍色以外の絵の具を釉薬のガラス質の上に施す上絵付け、上絵を定着させる上絵焼成という作業をそれぞれ専門の職人が担っているのだ。また、最初の工程である成形にもろくろ成形と鋳込み成形などがあり、それによって製造方法も変わってくる。ろくろ成形は、一つずつ手で生み出されるため個性豊かで手仕事の趣を感じる器が多い。鋳込み成形は、高い精度でほぼ同じ形の器を量産することが可能。器の用途や使い方などで好みの成形を選ぶのも面白い。そのほかにも、素地(素焼きした器)を仕入れて下絵付けからの工程を行う窯元もあり、窯元といってもその工程はさまざま。さらに販売のみの商店があるのも有田=やきものの町という印象をより強くさせている。

窯元や商店が多いのでどこを選べば良いかわからないという人も少なくないが、こればかりは一つ一つ訪れて自分の好みの器に出会うしかない。例えば、一人の職人が成形から完成までを手がける一品ものが欲しい人には「高麗庵清六窯」のような窯元をおすすめするし、有田の歴史を感じる作品をお探しなら「辻精磁社」を訪ねて欲しい。繊細な赤絵を手に取ってみたい人は「肥前赤絵窯元 鷹巣」に足を運んで欲しいし、飲食店で使う均一な食器を揃えたい人は「金善製陶所」がピッタリだろう。若手作家が生み出す目新しい器を求めるなら「手塚商店」がフィットするだろうし、新しい有田焼の可能性に出会いたい人はとにかく「2016/」を覗いて欲しい。このように器に関するさまざまなニーズに応えられるのも有田の魅力。

器を購入する際は、お気に入りの食器で食卓を飾る瞬間をぜひ想像して欲しい。いつもの料理が一層華やかになり、美味しさもきっと倍増するはず。江戸時代から今日に至るまで世界中の人々に愛される有田焼。透明感のある輝くような白地に美しい絵付けを施した美術品を彷彿とさせるその器は、これからも時代とともに進化しながら愛され続けるに違いない。

高麗庵清六窯 & 6kiln
中村清六氏が1966年に開窯した窯元で、ろくろで作られる白磁の曲線美を追求し続けている。現在は清六氏の薫陶を長女のゑ美こ氏と孫の清吾氏が継承。また清吾氏の妻・美穂氏が作る白磁を使ったアクセサリーブランド「6kiln(ロクキルン)」も展開している。
佐賀県西松浦郡有田町南原甲1136
0955-42-2432
https://seirokugama.jp


2016/
有田焼創業400周年という節目に立ち上げられた陶磁器の新しいブランド「2016/(ニーゼロイチロク)」。有田焼の商社・窯元16社と国内外のデザイナー16組のコラボーレーションによって生まれた400種近い製品がここで展示・販売されている。
佐賀県西松浦郡有田町赤坂丙2351-169
0955-42-2016
https://www.2016arita.jp


肥前赤絵窯元 鷹巣
有田で曽祖父の時代より四代続く上絵付専門の窯元。昔ながらの伝統的手法で磁器に絵付けをしており、印刷では得られない手描きの温かさが感じられる磁器が店内に並ぶ。繊細で緻密な赤絵(上絵付)を施した作品は、美術品としての価値も高い。
佐賀県西松浦郡有田町赤絵町1-2-5
0955-42-2380
https://takasu.official.ec


金善製陶所
業務用割烹食器を中心とした磁器製造業を営むこちらの窯元は、一つ一つの製品が精巧で均一。そのブレのなさが魅力となっている。その高い成形技術は料理のプロも認めるほど。2023年5月にオープンしたファクトリーショップではアウトレット商品を購入できる。
佐賀県西松浦郡有田町南原甲174
0955-43-3268
https://www.kanezengama.co.jp


辻精磁社
1668年、三代喜右衛門の器が霊元天皇に賞賛され、辻精磁社は公の窯元としてスタート。さらに八代当主喜平次により発明された辻家秘伝の製法「極真焼」は、皇室に献上するために生まれた製法で、気品溢れる光沢と深みのある呉須の発色が特徴となっている。
佐賀県西松浦郡有田町上幸平1丁目9-8
0955-42-2411
https://tsujiseijisha.jp


手塚商店
明治から昭和の初めにかけて、陶磁器の輸出業としてヨーロッパやアメリカへ有田焼を届けていた商社・手塚商店。そんな手塚商店が扱うのは、たなかふみえや石原亮太といった有田で活躍する若手作家の作品。彼らの挑戦の場としてギャラリー運営を行っている。
佐賀県西松浦郡有田町大樽1-2-2
0955-42-2018
https://www.yamago-tetsuka.com


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