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『憲法政治』著:清水真人
「憲法に基づいて政治を進める原理」を立憲主義という。その憲法は国民の権利を守り、国家権力の恣意的な行使を制限する統治構造を備えなければならない、とされる。(中略)このように憲法は、「政治の法」であり、民主政治のプロセスを規律し、形づくる法である。半面、その民主政治のプロセスを通じて憲法が改正されることもありうる。憲法と政治には、一筋縄ではいかない相互作用のダイナミズムが働いていると考えられる。こうした「憲法を巡る政治」、あるいは「憲法を取り扱う政治」を本書は「憲法政治」とよぶ。 [本文より]
今年の5月3日は、日本国憲法施行75年の憲法記念日だ。
4分の3世紀にわたって一度も改正されなかった憲法をどう評価するか。
改正の必要がないほどに、はじめからよくできた憲法だったとみるか。明文改正はされていないものの解釈と運用には幅があり政治がうまく使いこなしてきた結果だとみるか。あるいは、憲法改正のハードルが高すぎて政治の力が足りなかったか。
「一強」といわれるほどの政治力を持ち、また憲法改正の意欲も漲っていたはずの安倍政権ですら、ついに憲法改正を成し得なかった。本書は、『平成デモクラシー史』などの著書があり、現代の日本政治に詳しい日経新聞編集委員が、第二次安倍政権以降の憲法をめぐる政治をまとめたうえで、今後の憲法論議に必要な視点を提示する意欲作である。
結論を抽出するなら、国会・内閣・裁判所といった統治機構の制度的課題を解決する目的で、日本国憲法第2章(平和主義)や第3章(人権)ではなく、第4章以降の統治機構編に絞って議論することを提案している。それは、小選挙区制の導入に代表される平成の政治改革の結果うまれた「強い首相」に対して、次は、政府を統制する実質的な力をもつ「強い国会」を作らなければならないとの認識を前提にしている。
そして、その認識は、東大の宍戸常寿や京大の曽我部真裕といった今の憲法学界を主導する世代(現在40代後半)の学者から学んだところが大きい。憲法学界の世代交代を踏まえた、現在の論点を政治過程にのせることで、主に9条をめぐる旧来の政党間対立から解き放たれた、実質的な議論を成立させることが、副題にある〈「護憲か改憲か」を越えて〉の意味だ。
このように紹介すると、結局「改憲派」の本かと敬遠する向きもあろう。しかし、安全保障上の実質的効果の乏しい9条改正や、人権保障を後退させるかのような復古調の改憲論を退場させ、憲法学・政治学・行政学等の専門知を採り入れて、権力の統制を実質化する民主主義制度の改革を進めようとする提案は、いたって誠実なものだ。政治的立場によらず、一読を薦めたい。
このテキストは、2022年4月20日発刊の雑誌mutoに掲載されたものです。
著者プロフィール
清水真人
日本経済新聞編集委員。1964年生まれ。東京大学法学部卒業、同年日本経済新聞社に入社。政治部(首相官邸、自民党、公明党、外務省を担当)、経済部(大蔵省などを担当)、ジュネーブ支局長を経て、2004年より現職。著書に『平成デモクラシー史』(ちくま新書)、『官邸主導』『経済財政戦記』『首相の蹉跌』(いずれも日本経済新聞出版社)、『消費税 政と官の「十年戦争」』(新潮社)、『財務省と政治』(中公新書)、佐々木毅氏との共編著に『ゼミナール現代日本政治』(日本経済新聞出版社)がある。
Information
書籍名
『憲法政治』
著者
清水真人
出版社
ちくま新書
価格
940円(税別)
発売日
2022年1月
ISBNコード
978-4-480-07447-8