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『正欲』著者 : 朝井リョウ
朝井リョウは、直木賞の戦後最年少受賞記録保持者である。2013年、『何者』で受賞した当時、まだ23歳だった。直木賞が20代の作家に授賞することは稀であり、事実、朝井リョウ以後に20代で直木賞を受賞した作家はまだいない。特別に早くから、高く評価されている作家である。
作家生活10周年記念作品として2つの小説を刊行した。朝日新聞出版から昨年刊行した『スター』が[白版]、そして本作が[黒版]とされている。[黒版]というだけのことはあり、爽やかなエンタテインメント作品ではない。
〈ネタバレ〉を避けて詳細は伏せるが、あまり聞いたことのないような珍しさの性欲を抱えた、あるセクシュアル・マイノリティの周囲で起こる出来事を、何度も視点を変えながら描いていく小説であり、作品冒頭で示される犯罪事件の真相を追うミステリーにもなっている。
セクシュアル・マイノリティの存在については、昨今「LGBT」、「LGBTQ」、「LGBT+」などとその対象を次第に広げながら、様々な性のあり方を尊重しよう、多様性を承認しようとの働きかけが公的にも商業的にも盛んであり、いくらか「理解」が進んでいるようにも見える。
ところがこの小説は、それら「理解増進」の動きに内在する深刻な欠落を、死角を、読者のまえに明らかにする。
ものすごくかんたんに言うならば「おまえらかんたんにわかった気になってんじゃねぇよ、ぜんぜんわかっていないじゃねぇかよ、っていうかわかるわけないんだよ」と突きつける作品だ。登場人物のセリフを引用するなら「自分が想像できる“多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな」ということだ。
『何者』がそうだったように、人間関係の表面と内面心理の乖離を皮肉たっぷりに描く技術は、この作家の得意技だ。その技術が、現代社会の上っ面をまとめて蹴とばすような痛快さと、「理解」の向こう側にある孤絶の厳しさを、小説として、言葉にした。
著者がまだ直木賞作家でなかったら、本作で直木賞を受賞したかもしれない。
誰だって平和がいい。ならば、『21世紀の戦争と平和』三浦瑠麗
東浩紀の文章には、いつも人をリフトアップする力が宿っている。
「自分の価値観が沈黙を強いられている」と感じる人は、山崎ナオコーラを読むといい。
著者プロフィール
朝井リョウ
1989年、岐阜県生まれ。小説家。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2013年『何者』で第148回直木賞、2014年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。他の小説作品に『チア男子!!』『星やどりの声』『もういちど生まれる』『少女は卒業しない』『スペードの3』『武道館』『世にも奇妙な君物語』『ままならないから私とあなた』『何様』『死にがいを求めて生きているの』『どうしても生きてる』『発注いただきました!』『スター』、エッセイ集に『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』がある。
INFORMATION
書籍名
正欲
著者
朝井リョウ
出版社
新潮社
価格
1,870円(税込)
発売日
2021年3月1日
ISBNコード
9784103330639