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クルーズトレイン『ななつ星 in 九州』
日本初のクルーズトレインとして、2013年10月15日に初運行を開始した『ななつ星 in 九州』が昨年の2020年に7周年を迎えました。
運行前から大きな話題を呼び、予約をとるのも難しいと言われる人気列車は、九州の自然、食、温泉、歴史文化などに触れる豊かな旅で多くのリピーターを生み、その人気はとどまることを知りません。
この度、『ななつ星』運行7周年を記念して公式コンセプトムービーが完成しました。
「ななつ星in九州」公式コンセプトムービー
美しい映像で『ななつ星』の優雅な旅を表現するこの映像制作の陣頭指揮を執った、JR九州のクルーズトレイン本部の新山夏江さんにお話しをお聞きしました。
JR九州の新山夏江さん
「ななつ星in九州」公式コンセプトムービー 制作の担当責任者
コンセプトムービー制作のはじまり
ー まずはじめに『ななつ星』のコンセプトムービーを制作ることになった経緯を教えてください。
JR九州クルーズトレイン本部・新山夏江さん(以降:新山) 『ななつ星』は、九州7県を巡る列車ですが、初運行から7年、『ななつ星』のイメージも徐々に浸透してきたのではないかと思っています。JR九州の『ななつ星』の運行がスタートした後に、JR東日本さんなど他の鉄道会社もクルーズトレインの運行を開始されました。水戸岡鋭治(*1)さんが手がけるデザインの列車もJR九州だけではなくいくつも生まれる中で、今一度『ななつ星』の魅力、個性をいかに生み出していくかとチームで議論していました。次のステップをどのように展開しようかという”問い”が7周年企画へ向けた取り組みの始まりでした。
そこで、考えたのが、今一度原点を見つめようということです。『ななつ星』のコンセプトに「新しくて懐かしい」というものがあります。この意味は、”いつでも帰ってこられる場所”であったり、”日本の伝統を感じる空間”です。これらのコンセプトをお客様にもう一度、映像として丁寧に伝えたいという思いでこのプロジェクトがスタートしました。
物語のある映像作品と演出について
ー この企画の構想から完成までの期間は?
新山 構想は、昨年の3月頃からです。コロナ禍で列車も運休となり、今、何ができるのか?と考えたことが始まりですね。
ー 最初の美しいトンネルのシーンは、どこですか?
新山 大分駅と熊本駅を結ぶ豊肥本線のトンネルですね。熊本の大地震から4年ぶりに豊肥本線を『ななつ星』が通りました。撮影の日は雨でした。雨に濡れる木々や葉っぱが優しい色を出し、感情深い九州の神秘さを醸し出しているなぁと思いました。
静かで、見ていてとても落ち着く大好きなシーンです。
ー この映像作品の主人公といってもよい夫婦役の男性は、コラムニストの中村孝則さんですね?
新山 そうです。中村孝則(*2)さんは、ファッション、食、お酒やシガーなど、文化や嗜好品に関する知見をお持ちの方です。いつも素敵でエレガントな佇まいの中村孝則さんは、『ななつ星』のイメージにぴったりだと思い出演をお願いしました。ご婦人役の女性も豊かな旅空間を彩る上品なイメージのモデル・松浦紗知子さんに出演いただきました。
ー とてもストーリー性のある映像作品ですね。
新山 これまでにはない列車のプロモーション映像を作りたいと思っていました。特別な旅で本当の心の贅沢を感じてもらえる映像を目指しました。
ー 新山さんも撮影に立ちあわれたのですか?
新山 ほとんどの撮影に立ちあいましたし、実は、映像の中でエキストラとしても映っています(笑)列車内の食事のシーンにちらっと。
ー 出演する夫婦2人の衣装も素敵ですね
新山 『ななつ星』は、ドレスコードを設けています。出発ラウンジ「金星」では、スマートカジュアル、夕食時は、セミフォーマルとなっています。日本ではドレスコードの習慣があまりなく、苦手な方もおられるかもしれませんが、ドレスコードで旅をする楽しみが伝わる表現にしたいと衣装にもこだわりました。
『ななつ星』の細部へのこだわりを映像化
ー 列車内でサービスされるお料理やお酒を始め、ななつ星の魅力がさりげなく紹介されていますね。
新山 『ななつ星』の列車内には、日本の伝統工芸、特に九州の技がふんだんに使ってあります。例えば、家具の街・大川市の伝統工芸“組子”や有田焼の代名詞ともなっている「柿右衛門窯」、また「ろくろの神様」と称された、故・中村清六さんのDNAを受け継ぐ清六窯の器などです。映像で『ななつ星」の細部へのこだわりも観ていただけるようになっています。
ー 手紙のシーンも印象的でした
新山 こんな夫婦がいたら素敵だなと思いますね。この映像のディレクションと演出、撮影は、写真家の堀裕二(*3)さんにお願いしました。例えば最初のシーンで旅行鞄を持った腕時計をしている手元のシーンがありますが、あそこは、時計とカバンが有れば列車の旅が楽しめるという想いが込められています。ちなみに中村孝則さんのがつけられている時計はグランドセイコーで、手紙を書くシーンの万年筆はスティピュラです。両方とも中村孝則さんがこれじゃないとダメだというものを使用しています。
ー 凝ったアングルも随所に観られますね
新山 6Kカメラで映画と同じコマ数(24fps)で撮影したり、ドローンの撮影も行なっています。特に『ななつ星』から眺める夕日のシーンは、12月の夕日が一番きれいだということで3、4回撮影に行きました。
ー 出演されている列車内のスタッフはみなさん本物ですか?
新山 全て『ななつ星』の本物のクルーです。『ななつ星』を何度も利用いただいているお客様の多くは「クルーに会いたい」という方が多いんです。嬉しいですね。
ー 『ななつ星』のクルーのサービスは、何か特別なトレーニングを行われているのですか?
新山 30名ほどのクルーがいますが『ななつ星』には特別なマニュアルがありません。お客様とのふれあいやサービスは、クルーそれぞれの個性を活かすという考え方です。業務は、教わりトレーニングを重ねれば身に付きます。あえて言うなら、「ななつ星」のクルーに求められるのは、豊かな個性とホスピタリティのマインドだと思います。
ー 最後に新山さんが特にお気に入りのシーンを教えてください。
新山 たくさんありますが、ひとつは、列車の「音」を聴いていただきたいです。『ななつ星』が走る音は格別なんです。カーブを曲がるときなどの重厚感は何度聞いてもジーンときます。もうひとつは、食事をサービスするラウンジカーの雰囲気ですね。『ななつ星』の豊かなイメージを象徴するシーンです。
『ななつ星』は、年齢に関係なく心の豊かさ、極上の非日常や旅の本質を感じていただけるような列車にしたいと思っています。「ななつ星」のコンセプトでもある「新たな人生にめぐり逢う、旅。」を体験していただきたいですね。車窓を眺めるって、どこか自分と向き合っている時間のような気がします。この映像を車窓を眺めるような気持ちで観ていただければと思います。
博多駅から出発する『ななつ星』のお見送りをする新山夏江さん。新山さんは、クルーズトレイン本部からこの4月に鉄道事業本部 営業部営業課(列車物流プロジェクト)という新プロジェクトを立ち上げる部署へ異動されるということです。
(*1)水戸岡鋭治(デザイナー)
1947年 岡山県出身。建築、鉄道車両・船舶、プロダクト、グラフィックなど様々なジャンルのデザインを手がける。なかでもJR九州の車両や関連施設のデザインは鉄道ファンの枠を超えて広く注目を集め、ブルネル賞、ブルーリボン賞、日本鉄道賞、毎日デザイン賞、菊池寛賞など受賞多数。主なデザイン作品は:JR九州の新幹線800系、クルーズトレイン「ななつ星in九州」、787系をはじめとする特急車両など。
(*2)中村孝則(コラムニスト)
神奈川県葉山町生まれ。ファッションやグルメやワイン、旅やライフスタイルをテーマに、新聞や雑誌やTVで活躍中。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)、共著に『ザ・シガーライフ』(オータバブリケーションズ)などがある。
(*3)堀裕二(写真家)
1967年。1986年集英社スタジオでスタジオ撮影を学ぶ。1989年フリーランスフォトグラファーとして独立。その後、国内有名ファッション雑誌のファッションフォトグラファーになる。2002年 有限会社PHOTOGRAPHIC設立、広告カメラマンに転身。
ななつ星 公式HPはコチラ