至高のアナログ・サウンドを聴かせる聖地として、世界中のジャズ・ファンやオーディオ・ファンが集う岩手県一関市の「ジャズ喫茶　ベイシー」。マスターの菅原正二氏がこだわり抜いた唯一無二の音と“ジャズな生き様”を炙り出したドキュメンタリー映画『ジャズ喫茶ベイシー　Swiftyの譚詩(Ballad)』が公開される。

昭和初期、ジャズの普及とともにはじまった“ジャズ喫茶”。この日本独自のレコード鑑賞文化は、少なくなったものの現在も全国に存在する。岩手県一関市で50年営業を続ける「ベイシー」には、マスター菅原氏が生みす“音”を求めて、世界からジャズファン・オーディオファンが連日訪れる。

「ベイシー」が世界一のジャズ喫茶と言われる由縁は、菅原氏のオーディオへのこだわりにある。菅原氏は開店以来使い続けているというJBLのオーディオ機器の日々の調整に余念が無い。菅原が不在で営業したことは１日たりともない。本作では、そんな菅原氏が針を落とすカウント・ベイシー、マイルス・デイビス、セロニアス・モンクなど名プレイヤーたちのレコードを、アナログ録音の伝説的名器「ナグラ」で生収録。菅原氏が再生する極上の音が、喫茶ベイシーの臨場感も含めて表現されている。生み出されたサウンドは、名だたる名プレーヤー達がその場で演奏しているかのような錯覚を抱かせてくれる。

菅原氏のインタビューを中心に、渡辺貞夫、坂田明、村上“ポンタ”秀一、ペーター・ブロッツマンなど世界的なミュージシャンによる「ベイシー」での生演奏や、阿部薫、エルヴィン・ジョーンズの貴重な生前のライブ映像、さらに各界著名人らのインタビューも収録。菅原氏の妥協なき「音への追求」や、店名の由来にもなったカウント・ベイシーとの交友録などが収められている。5年に渡って150時間もの映像を撮り続けたのは、本作が初監督作品となる星野哲也氏。バーのオーナーという顔も持つ星野氏だが、菅原氏との親交の深い彼だからこそ捉えられる瞬間が多数収められている。デジタル時代だからこそ、本作は観る者に問いかける。「確かに便利な世の中になっているようだ 音楽も持ち歩ける時代だ。しかし便利を優先して感動を置き忘れてはいないか?」