スパイの妻

祝!第77回ベネチア国際映画祭銀獅子賞受賞 黒沢清監督「スパイの妻」

公開日

muto編集部

©2020 NHK, NEP, Incline, C&I

9月13日、第77回ベネチア国際映画祭の授賞式が行われ、黒沢清監督の「スパイの妻」がコンペティション部門の監督賞(銀獅子賞)を受賞しました。日本人の同賞受賞は、2003年の北野武監督(「座頭市」)以来の快挙です。

そろそろ映画館で映画が観たくなってきました

コロナ禍の今、長らく映画館から足が遠のいている人も多いかもしれません。

「映画館に行きたいけど、なんだか密閉してるし・・・」

そんな心配は当然ですが、去る8月4日に「全国興行生活衛生同業組合連合会」による映画館の換気の実証実験が行われ、話題となりました。

映画館の換気の実証実験映像は→コチラ

(この実験映像は全国の主要劇場でも上映されています)

実験に立ち会った愛知医科大学病院の感染症科・三鴨教授は、「最低限以上の換気がされていることが分かった。かなりの安全性が施されていることが実験結果から分かったと思う」と話しました。
実は、日本の映画館の換気システムは、各自治体による厳しい換気基準が設けられ、コロナ禍前から安全な換気システムが完備されているのです。

だとしたら、次に考えるのは、観るべき映画、今後上映される予定の作品の中からmuto編集部がイチおしする作品が、黒沢清監督、蒼井優+高橋一生共演の「スパイの妻」です。

スパイの妻

名匠、黒沢清監督が初めて挑んだ歴史の闇

「1940年代前半の日本はいったいどのような狂乱に支配されていたのか、それをありありと再現することの難しさを私は最初から覚悟していました。この企画は近くの街角で即興的にカメラを回すことが許されず、科白の細かい一言一句から1カットごとの美術と装飾、そしてエキストラたちの髪型や衣装にいたるまで、すべてにフィクションとしての抜かりない完成度が求められる上に、作る側の歴史に対する良識が隅々に渡って問われるのです。
〈中略〉映画作りの緊張と喜びを、これほど素直に感じることができたのは、私の長いキャリアの中でも久しくなかったことでした。現代日本映画はまだまだ未知の可能性を秘めているようです。」

常にクールな印象を持つ黒沢清監督がこれほどまでに、自身の新作に熱を込めて語ったことがかつてあったでしょうか。
世界のクロサワとは今や、黒澤ではなく、黒沢であり、特にヨーロッパでは、新作が発表されるたびに熱狂的なキヨシストに迎えられる日本が世界に誇る映画監督が初めて挑んだ歴史作品。必見です。

スパイの妻

すべての国民が同じ方向を向くことを強いられていた太平洋戦争開戦間近の日本

物語は、太平洋戦争前夜の日本。
1940年、神戸で貿易会社を営む優作は、赴いた満州で、恐ろしい国家機密を偶然知り、正義のため、事の顛末を世に知らしめようとする。
満州から連れ帰った謎の女、油紙に包まれたノート、金庫に隠されたフィルム…聡子の知らぬところで別の顔を持ち始めた夫、優作。
それでも、優作への愛が聡子を突き動かしていく———。

正義を貫くためには、誰かを陥れなければならない。
愛を貫くためには、誰かを裏切らなければならない。
正義、欺瞞、裏切り、信頼、嫉妬、幸福。
相反するものに揺られながら、抗えない時勢に夫婦の運命は飲まれていく。昭和初期の日本を舞台に、愛と正義を賭けた、必見の超一級のミステリーエンタテインメントが誕生しました。

製作陣には、日本を代表する才能が集結

ロケ地、衣裳、美術、台詞回し、すべてにこだわり、描き出した疑心暗鬼渦巻く狂乱の時代。
脚本を手掛けたのは黒沢自身と濱口竜介(『寝ても覚めても』)、野原位(『ハッピーアワー』脚本)。
3人が結合することで生まれた化学反応に目を見張ります。
音楽は、「ペトロールズ」のリードボーカル&ギターであり、浮雲名義でロックバンド「東京事変」のギタリストとしても活動している長岡亮介。本作で映画音楽を初めて手掛けました。
そして、安宅紀史が美術、纐纈春樹が衣裳を担い、美しくもリアリティのある昭和初期世界観を鮮やかに再現しています。

日本を代表する才能が集結した本作は、9月13日、第77回ベネチア国際映画祭の授賞式が行われ、黒沢清監督の「スパイの妻」がコンペティション部門の監督賞(銀獅子賞)を受賞しました。

スパイの妻

蒼井優と高橋一生という稀代の名優2人が放つ歴史の闇

本作のエクゼクティブプロデューサーの岡本英之氏によると、監督・黒沢清、脚本・濱口竜介を考えたのが、2017年。
何もない中から始まった企画で、「神戸を舞台としたドラマを作っていただきたい」ということ以外提案はなかった。
企画書に落とし込まれた時、既に音楽・長岡亮介の名も記されている。
これは岡本氏が10年来、彼の音楽に惚れ込んでの悲願だったそうだ。

蒼井優さん、高橋一生さんをはじめとした素晴らしいキャスティングについて黒沢清監督は「一瞬も気の抜けない張りつめた撮影の日々でしたが、スタッフとキャスト全員が素晴らしい仕事をしてくれました。
とりわけ蒼井優さん、高橋一生さんが、あの時代の夫婦が直面する信頼と疑心暗鬼の交錯を、強烈なリアリティをもって演じきってくれて、歴史ドラマであると同時に最高のサスペンスに仕上がったと自負しています。」とコメントしている。

現代を撮り続けてきた黒沢清監督の初めての歴史作品。
構築が求められる歴史映画に、黒沢清の香りがいかに漂っているか。
映画館で確かめてください。

information

作品名

スパイの妻

監督・脚本

黒沢清

脚本

濱口竜介、野原位

音楽

長岡亮介

撮影

佐々木達之介

照明

木村中哉

美術

安宅紀史

出演

蒼井優、高橋一生、東出昌大、坂東龍汰、恒松祐里、笹野高史、他

配給

ビターズ・エンド

配給協力

『スパイの妻』プロモーションパートナーズ

公開

10 月 16 日(金)より、KBCシネマほか全国ロードショー!

©2020 NHK, NEP, Incline, C&I
2020/日本/115分

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