いまだ色褪せない、日本の危機を描いた傑作!
島田雅彦 著『虚人の星』

公開日

リブロプラス 野上由人

誰も気づいていないが、戦争はすでに始まっている。7つの人格を持つ二重スパイと、血筋だけが取り柄の三代目首相。交互に明かされる諜報と政権の秘密。国家の自殺を食い止めることはできるのか?

元祖『優しいサヨク』は戦後七十年の年に是が非でも『虚人の星』を上梓しなければならなかった。
本作は日本の現在の安全保障問題を解決するための「代案」を提出している。こちらの方が自民党の安保法案より百倍現実的である。対米従属と戦前回帰以外の選択肢がないと思い込まされた人々も、本作の二人、スパイの星新一や首相の松平定男のように抑圧された自我を解放しさえすれば、何が正義かに気づくはずである。【島田雅彦】

『虚人の星』著:島田雅彦

現代資本主義への抵抗を、リーダブルな文体でエンタテインメント性高く描いた『悪貨』や『ニッチを探して』に続き、今度は政治、しかも安倍政権への批判と読まれて当然の内容を、スパイ小説仕立てで上梓した。

虚人の星

無論、デビュー作『優しいサヨクのための嬉遊曲』以来、島田雅彦は政治への言及を躊躇う作家ではなかった。

代表作「無限カノン三部作」では皇室を扱っている。それでも、さすがに政権そのものを題材にした作品は初めてだろう。しかも、集団的自衛権の行使を可能にした法改正の数年後を描く、予言小説ともいえる内容だ。

一部の文学ファンには、時局的に過ぎると敬遠されるかもしれない。
とはいえ、夢遊病者やシャーマンなど異質な視点の導入によりポリフォニックな作品世界を描き続けてきた作家である。そんなに単純ではない。

作品中の日本国総理大臣は、のび太とドラえもんの人格を併せ持つ。さらに主人公「星新一」は、7つの人格を駆使するスパイだ。個人の内に、複数性が仕組まれている。人格は固まらずに、変化する。

これが支離滅裂に終わるか、あるいは、そこに希望を見出せるか。この賭けを、読者は小説の快楽として味わうことになる。

容赦なく炸裂した「優しいサヨク」の知的挑発。戦後70年の今年に相応しい傑作だ。

著者プロフィール
島田雅彦
1961年、東京都生れ。東京外国語大学ロシア語学科卒。
1983年『優しいサヨクのための嬉遊曲』を発表し注目される。
1984年『夢遊王国のための音楽』で野間文芸新人賞、1992年『彼岸先生』で泉鏡花文学賞、2006年『退廃姉妹』で伊藤整文学賞を受賞。著書は『天国が降ってくる』『僕は模造人間』『彗星の住人』『美しい魂』『エトロフの恋』『フランシスコ・X』『佳人の奇遇』『徒然王子』等多数。

INFORMATION

書籍名

虚人の星

著者名

島田雅彦

出版社

講談社

価格

1,600円(税別)

発売日

2015年

ISBNコード

9784062197434

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