「Pina ピナ・バウシュ踊り続けるいのち」[spotlight page 1]

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2009年6月30日にピナ・バウシュが亡くなって、3年が過ぎようとしている。
その訃報が届いたほんの5日前には、マイケル・ジャクソンが亡くなっていた。
あの年の6月は、世界を魅了した偉大なダンサーが一瞬にして二人も亡くなった月だったのだ。

ピナ・バウシュは、ドイツ東部の地方都市に本拠地を置くヴッパタール舞踏団の芸術監督として30年以上に渡って芸術監督を務めた。その作品の数々は、演劇的な要素をダンスに取り込むドイツ表現主義の系統を正しく継承しつつ、さらに進化させた表現として「ダンツテアター(ダンスシアタ―)」とよばれ、世界中から熱狂的に愛され続けた。
新作が発表されるとなれば、ドイツの小さな街ヴッパタールへ、世界各地から芸術の目利き達がつめかけ、いつの日かヴッパタールという小さな街の名は、世界最高の舞踏団を持つ文化都市として広く知られることとなった。

ピナ・バウシュの振り付けは、ダンサー達への問いかけからはじまるという。「あなたにとっての踊りとは?」「あなたにとっての笑いとは?」「悲しみとは?」「怒りとは?」「喜びとは?」執拗に、ある時は拷問のように果てることなく続く問いの連続。個々のダンサーの人生そのものを通して、魂の奥底にある感情に身体の動きを通して到達しようとする独自の演出。ステージ上には、大量の水や土、枯れ木や石材などが舞台装置としてもちいられ、ダンサー達が極限の絶望と人生に関わる天上の喜びを、時に不条理劇のように繰りひろげる。

このダンスと演劇の境界を飛び越えた圧倒的なパフォーマンスは、様々なカンパニーが真似ようとしたが、どこのカンパニーも真似ることができなかった。それはまるで、別世界で見る夢のような舞台だった。そのピナ・バウシュと長年親交があった映画監督のヴェム・ヴァンダースが3Dという新たなテクノロジーを使い、ピナ・バウシュの表現の魅力にせまろうとドキュメンタリー映画の制作の準備を進めていた。カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した「ベルリン・天使の詩」やキューバ音楽を世界に知らしめたドキュメンタリー映画「ブエナビスタ・ソシアルクラブ」の監督は、ピナ・バウシュとヴッパタール舞踏団の世界こそ3D映画に相応しい技術だと確信していた。そんな矢先に訪れた、ピナの突然の死。
一時は、映画の製作をあきらめかけていた監督に、強くプロジェクトの継続を鼓舞したのは、ヴッパタール舞踏団のメンバーだったという。「ピナに捧げる」と静かにうたわれたこの映画では、本来ステージ上で踊られる様々な作品の華麗なる断片が、ヴッパタールの街角、工場や公道の片隅などの現代建築を背景に、あるいは庭園や生い茂る森の中などいくつもの場所で踊られる。ステージから抜けだした具体的な「場所」に、最高の技術と演技力を持ったダンサー達が、数々のレパートリーの華麗な断片をトレースしていく。はかなく、どこまでも美しすぎる絵画作品のような運動の連続。

毎年のように発表されていた新作をもう観ることはない。しかし、ピナ・バウシュとヴッパタール舞踏団には、魅力に溢れた作品の数々がレパートリーとして残っている。この映画は、ピナ・バウシュに向けて作られている。天国から微笑んで観ているはずのピナに向けて。美しい人、ピナ・バウシュに向けて。
誕生から100年を超える映画史において、新たな技術として注目される3Dが、この映画ではじめて正当な技術として提示された。映画史の出来事として、その瞬間にも立ち合えることのできる今春最大の注目作品だ。
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INFORMATION
Pina / ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち コレクターズ・エディション(Blu-ray)
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:ピナ・バウシュ、ヴッパタール舞踊団

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