©Photo by Julia Wesely

2020/05/13

アート

驚愕の演奏、これは事件である!
テオドール・クルレンツィスの「5番」

COVID-19による混乱と喧噪の中、去る4月8日に、世界でもっとも有名な楽曲を収めた新譜がリリースされた。
テオドール・クルレンツィス指揮、ムジカエテルナの演奏による『ベートヴェン 交響曲第5番』。この演奏、紛れもなく事件です。

21世紀も4半世紀が過ぎようとしている今、クラシック音楽の新譜が発売されるだけで事件になってしまう事態を誰が信じられるだろう。それもその作品とは、演奏されつくし、聴かれつくし、語りつくされたベートーヴェンの第5交響曲。日本では、通称「運命」と親しまれているこの作品。冒頭の「運命が扉をたたく音」と呼ばれる8つの音階は、誰もが知る世界一有名なフレーズだろう。過去には、フルトヴェンクラーやカラヤン、セルやクライバーといったスター指揮者のみならず、ありとあらゆるオーケストラが演奏してきた楽曲。いくらなんでももう聴き飽きた、とさえいいたくなる定番中の定番を驚愕の演奏で甦らせたのは、193cmの長身とロックスターのような風貌で今やクラシック音楽界の話題をひとり占めする最強の指揮者・テオドール・クルレンツィスだ。

テオドール・クルレンツィス

Photo by Julia Wesely

クルレンツィスは、1972年、ギリシャ・アテネに生まれた。サンクトベルグ音楽院で学び、イリヤ・ムージンのもとで指揮法を習得。ギルギエフ、テルミカーノフなど世界の名だたる指揮者を育てたムージンは、晩年「クルレンツィスだけが唯一の天才だった」と語ったという逸話が残る。
2011年、ロシア西部の都市ペルミのペルミ国立オペラ・バレエ劇場の芸術監督に就任。
クルレンツィスが目指すのは、聴衆にエネルギーを伝えること。「なぜ観衆は、ロックコンサートのようにクラシック音楽に熱狂できないのか?」を問い続ける。その問いは、今や、なぜ、クルレンツィスだけが聴衆を熱狂させるのか?という問いに変わっているようでさえある。
現在は、ムジカエテルナの芸術監督、ドイツ・シュトゥットガルドを拠点とする南西ドイツ放送交響楽団(SWR)の首席指揮者も務めている。

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調「運命」

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調「運命」
[録音]2018年7月~8月 コンツェルトハウス、ウィーン

それにしてもこの〈運命〉、多少なりとも音楽へ興味を持つものにとっては、あまりにもポピュラー過ぎて改めて語ることさえ躊躇する楽曲。クルレンツィスは、この楽曲の演奏解釈として、“運命がドアを叩く音”という解釈を拒否する。

私は心の底から信じているが、ベートーヴェンの第5交響曲に対して、「運命が扉を叩く」といった安易な「哲学的」思想をくっつけようとするのは悲しくも滑稽なことに思える。この録音で私がただひとつ望んでいるのは、いわゆる、カタルシス=浄化を第5交響曲の音楽的ドラマとして示すことである。

過去のどの演奏とも違うアプローチで私たちを音楽の歓びに招待するクルレンツィスは、新譜が出るたびにもうこれ以上はないのではないかという驚きを与えてくれる音楽家だ。 秋には、ワーグナーが“舞踏の神化”と呼んだ7番交響曲もリリースされる。
世界は浄化を求めている?
ベートーヴェン生誕250周年の今年、まずは、この天才に身を預け音楽の快楽に浸る贅沢をお薦めする。

テオドール・クルレンツィス ディスコグラフィー

ラモー:輝きの音(オペラ=バレからの音楽)

ラモー:輝きの音(オペラ=バレからの音楽)
ナディーヌ・クッチャー(ソプラノ)、アレクセイ・スヴェトフ(バス)
[録音]2012年6月8日〜18日 ロシア、ペルミ国立歌劇場

ストラヴィンスキー:バレエ「春の祭典」

ストラヴィンスキー:バレエ「春の祭典」
ナディーヌ・クッチャー(ソプラノ)、アレクセイ・スヴェトフ(バス)
[録音]2012年6月8日〜18日 ロシア、ペルミ国立歌劇場

モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」K.527(全曲)

モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」K.527(全曲)
ディミトリス・ティリアコス、ヴィート・プリアンテ、ミカ・カレス、他
[録音]2014年1月 ロシア、ペルミ国立歌劇場

モーツァルト:歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」K.588(全曲)

モーツァルト:歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」K.588(全曲)
ジモーネ・ケルメス、マレーナ・エルンマン、クリストファー・マルトマン、他
[録音]2014年1月 ロシア、ペルミ国立歌劇場

モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」K.492

モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」K.492
アンドレイ・ボンダレンコ、ジモーネ・ケルメス、クリスティアン・ヴァン・ホルン、他
[録音]2012年9~10月 ロシア、ペルミ国立歌劇場(セッション録音)

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
ストラヴィンスキー:バレエ・カンタータ「結婚」パトリツィア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)
[録音]2014年5月 ペルミ国立チャイコフスキー・オペラ&バレエ劇場(チャイコフスキー)/2013年10月 マドリッド王立劇場(ストラヴィンスキー)

チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調「悲愴」

チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調「悲愴」
ナディーヌ・クッチャー(ソプラノ)、アレクセイ・スヴェトフ(バス)
[録音]2015年2月9日〜15日 フンクハウス・ナレパシュトラーセ、ベルリン

マーラー:交響曲第6番イ短調「悲劇的」

マーラー:交響曲第6番イ短調「悲劇的」
[録音]2016年7月3日〜9日 モスクワ Dom Zvukozapisi(house of recordings)

テオドール・クルレンツィス Teodor Currentzis

テオドール・クルレンツィスは現在、シュトゥットガルトを拠点とする南西ドイツ放送交響楽団(SWR)の首席指揮者(2018/19シーズンより)であり、またアンサンブル・ムジカエテルナおよびムジカエテルナ室内合唱団の芸術監督を務める。2012年にソニー・ミュージックと専属契約を結び、モーツァルトとダ・ポンテ台本によるオペラ三部作をはじめ、ラモー、ストラヴィンスキー、コパチンスカヤと共演したチャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲、チャイコフスキーやマーラーなどを次々に世に問い、数々のレコード賞を受賞して常に音楽界を震撼させてきた。また彼らはザルツブルク音楽祭にもしばしば登場している。2017年のピーター・セラーズ新演出によるモーツァルトのオペラ「皇帝ティートの慈悲」や、2018年のベートーヴェンの交響曲チクルスは大きな話題となった。また2018年にはBBCプロムスにもデビューを飾っている。

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