実現しなかった「建築」にこそリアルを感じる、『インポッシブル・アーキテクチャー もうひとつの建築史』展、開催中[spotlight page 1]

ザハ・ハディド・アーキテクツ+設計JV(日建設計、梓設計、日本設計、オーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ・ジャパン設計共同体)《新国立競技場》構造用風洞実験模型、高さ75mのプラン(1:300)、協力:設計JV(日建設計、梓設計、日本設計、オーヴ・ アラップ・アンド・パートナーズ・ジャパン設計共同体)

「建築」とは、不可思議なものだ。

建築という行為は、おそらく創造(=アート)的な行為であるにもかかわらず、純粋にアートと呼ぶにはあまりにも多くの人間が関わり、膨大な予算を費やし、時に下品なほど政治的であり、時にあからさまに経済的である。作家としての主体がいったいどこにあるのか不明に思えることがあるかと思えば、有名建築物には、建築家個人の名前があり、われわれを驚嘆させる美学的な達成がある。

そもそも「建築」とは、建築家オリジナルの作品ではなく、あらゆる建築プロジェクトのほぼすべては、クライアント(施主)の発注による受動的行為である。よって、建築は、完成へと進む過程において必ず変化と退行、生成を繰りかえす。それでも、「建築」は、完成するだけでも幸運である。ほとんどの「建築」は、建築されない(アンビルト)まま、忘却の彼方へ消えていく。建築されない主なケースとして、計画されたものの発注者側の予算の都合でストップするケース、自治体首長の交代を機に進行中のプロジェクトが中止するケース。あるいは、コンペ(設計競技)に参加した落選案などがあり、他にもはじめから建築家の思考実験として発表したものも含まれるだろう。

しかし、だからこそ建築されない建築は、妥協前の創造的エネルギーに満ちており、建築家が本来込めた理念を再現する原石として存在している。もしかしたら「建築」されなかった建築だけが純粋な「建築」と呼べるのかもしれない。
そんな建築されない建築に光を当てた興味深い展覧会『インポッシブル・アーキテクチャー もうひとつの建築史』展が、現在、広島市現代美術館で開催されている。(その後、来年1月より大阪、国立国際美術館で開催。)

映像制作:長倉威彦《ウラジーミル・タトリン、第3インターナショナル記念塔》CG映像、1998年

ヤーコフ・チェルニホフ『建築ファンタジー 101のカラー・コンポジション、101の建築小図』より挿図、1933年、個人蔵

この展覧会の監修は、建築史家、建築批評家の五十嵐太郎氏がつとめ、参加作品は、100年前から現代までの実現しなかったプロジェクトをあつかう。展示のはじまりを飾るのは、ロシア革命とその前後に起きた前衛芸術運動「ロシア・アヴァンギャルド」を象徴するウラジーミル・タトリンの「第3インターナショナル記念塔」(1919~20年)。パリのエッフェル塔を100mしのぐ高さ400mで構想され、鉄製の二重らせんの内部で構造物が回転するというもの。ロシア革命直後の経済的、技術的な問題で実現しなかったにもかかわらず、20世紀の有名建築の一つとなった。また、展示作品には建築家が手がけたプロジェクトだけではなく、美術家が建築に挑んだプランにも焦点が当てられている。本展覧会では、東京・日本橋の頭上を走る首都高速道路を地下化する事業のアイデアとして、美術家の会田誠が日本橋と首都高の上にさらにもう一つ木造の太鼓橋を架けてしまうという「シン日本橋」(2018~19年)が展示されている。建築家にはとても提案できそうにないダイナミックなプランだ。

この展覧会は、20世紀以降の国外、国内のアンビルトの建築に焦点をあて、それらを仮に「インポッシブル・アーキテクチャー」と称している。ここでの「インポッシブル」という言葉は、単に建築構想が「不可能」を意味するのではなく、不可能に目を向ければ、同時に可能性の境界を問うことにも繋がるという意味が込められているという。約40人の建築家・美術家による図面、模型、関連資料などを通して読み解きながら、未だ見ぬ新たな建築の姿を展望する。

そして、この展覧会の最後の展示作品は悪名高い(と、あえて言ってしまうが)東京オリンピックの開会に合わせて計画された新国立競技場設計競技1等案、ザハ・ハディド・アーキテクツ+設計JVの計画が紹介されている。国家プロジェクトに等しい規模の国際コンペを実施し、公正な審査を経て選ばれたザハ・ハディド(1950-2016)案が、いとも簡単に説得力のある論理的説明もないまま白紙撤回された事象は記憶に新しい。(日本建築界の評価が国際的に地に落ちたとまでいわれた)ザハ・ハディド・アーキテクツ+設計JVが1等案を実現させるために作成した膨大な資料に圧倒され展示会場をあとにする…。この展覧会のラディカルで挑戦的な試みを是非体験していただきたい。

会田誠《シン日本橋》クレヨン、アクリル絵具、紙、2018-2019年、 作家蔵、©AIDA Makoto / Courtesy of Mizuma Art Gallery

藤本壮介《べトンハラ・ウォーターフロント・センター設計競技1等案》周辺図、CG画像、2012年

[ 出品作家 ] 会田誠、安藤忠雄、荒川修作+マドリン・ギンズ、アーキグラム、ヤーコフ・チェルニホフ、ヨナ・フリードマン、藤本壮介、マーク・フォスター・ゲージ、ピエール=ジャン・ジルー、ザハ・ハディド・アーキテクツ+設計JV、ジョン・ヘイダック、ハンス・ホライン、石上純也、磯崎新、川喜田煉七郎、菊竹清訓、レム・コールハース/OMA、黒川紀章、ダニエル・リベスキンド、前川國男、カジミール・マレーヴィチ、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ、村田豊、長倉威彦、コンスタン(コンスタン・ニーヴェンホイス)、岡本太郎、セドリック・プライス、エットレ・ソットサス、スーパースタジオ、瀧澤眞弓、ウラジーミル・タトリン、ブルーノ・タウト、ジュゼッペ・テラーニ、山口晃、山口文象(岡村蚊象)
INFORMATION
名称インポッシブル・アーキテクチャー もうひとつの建築史
会場広島市現代美術館(広島県広島市南区比治山公園1-1)
会期2019年9月18日(水)~12月8日(日)
休館日月曜日(ただし、9月23日、10月14日、11月4日は開館)、9月24日(火)、10月15日(火)、11月5日(火)
開館時間10:00~17:00 ※入場は閉館の30分前まで
観覧料一般1,200円(1,000円)、大学生900円(700円)、高校生・65歳以上600円(500円)、中学生以下無料
※( )内は前売り及び30名以上の団体料金
※11月3日(文化の日)は全館無料
主催広島市現代美術館、読売新聞社、美術館連絡協議会
監修五十嵐太郎
協賛ライオン、大日本印刷、損保ジャパン日本興亜
協力Estate of Madeline Gins / Reversible Destiny Foundation
お問い合わせ広島市現代美術館 TEL.082-264-1121
WEBhttps://www.hiroshima-moca.jp/

Feature Articles Back Numbers

Instagram

recommend

mutoが切り取った街の情報をボーダレスにピックアップ。身の回りで起こっているコト、注目のモノなどをここでチェック。

実現しなかった「建築」にこそリアルを感じる、『インポッシブル・アーキテクチャー もうひとつの建築史』展、開催中
洗練された日常性を備えたハイスピードクルーザー「マクラーレンGT」
旬の野菜を堪能するヴィーガンランチを「ザ・ルイガンズ. スパ&リゾート」で