男社会

古い男性性の時代が終わった後に開ける世界とは、どういうものだろう。『さよなら、男社会』

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リブロプラス 野上由人

『さよなら男社会』の著者、尹雄大氏が50歳となろ自らの体験を出発点に「いかにして男はマッチョになるのか」「どうすれば男性性を脱ぎ去ることができるのか」を問う。これまでにない男性をめぐる当事者研究!

古い男性性の時代が終わった後に開ける世界とは、どういうものだろう。
長年かけて築いてきた男性性や女性性が全てガラリと瞬間的に入れ替わるわけでなく、やはり過去の名残があって、変化を拒絶したくなったり、寂しく感じることもあるのではないかと思う。しかし全てが変化していくというダイナミックな動きが自分そのものだと思うと、自分の偏狭さも弱さもそれはそれとして受け入れるのではないだろうか。
変わりゆく自分を歓待する態度が当たり前になるといいなと思う。【あとがきより】

『さよなら男社会』著者 : 尹雄大氏

ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』で、星野源演じる津崎平匡は、初めての子どもが産まれるにあたり、自身の父親からこう言われる。

「家族を養う大黒柱として今まで以上に責任をもってしっかりせんにゃあいけん」。

平匡は「責任はもちろんあるけど、大黒柱ってもう古いんじゃないかな。うちは、夫婦二人でやっていこうとしてる。二人で分け合って、二人の責任で」と反論を試みるが、

「そんまえに男なんじゃけ、家長の責任ちゅうもんがあるじゃろ。男として、しっかりしろっちゅう話をしとるんじゃ」

と圧をかけられ、黙ってしまう。

テレビドラマ史上最もリベラルな男性キャラクターでも、このような父親を持つ。
この父親像にいくらか誇張があるとしても、「ないない、こんな父親いまの時代もういない」と一笑に付すことはできない。
「男なんだから」「男として」「男らしく」は、少々古風だとは思われるかもしれないが、死語にはなっていない。

男社会

本書は、1970年生まれの、それこそリベラルと目される著者が、自らの生育環境を振り返りながら、男が「男」として育てられる家庭、学校、その他の社会における規範や圧力、ときに暴力的なそれへの違和感を丁寧に辿り「男性性」とはいかなるものかを明らかにしようとする論考である。
著者は決して自らをクリーンな安全地帯に置かない。どちらかといえば内罰的にも思える記述が続く。
よって「上から目線」で古い価値観を批判するものではない。
なぜ私たち(男性)は、このような理不尽を長らく受け入れてきたのだろうか、なぜ逃れられずにいたのだろうかと痛みを共有する同志へ向けて繰り返し問う。

もちろん、フェミニズムやジェンダー論に予め関心のある人が手に取りやすい本ではあるだろう。
しかし、そうではなく、努めて「男らしく」がんばって「男として、しっかり」生きている人にこそ、この悩ましい問いが響くように思う。

[野上由人さんそのほかの記事]
・東浩紀の文章には、いつも人をリフトアップする力が宿っている。
・「L」「G」「B」「T」差別解消には「良心」や「道徳」ではなく「知識」が必要だ
・「差別はいけない」とみんないうけれど。
・僕は15歳になろうとするお前にこの手紙を書いている。

著者プロフィール

尹雄大(ゆん うんで)
1970年神戸市生まれ。インタビュアー&ライター。政財界人やアスリート、アーティストなど約1000人に取材し、その経験と様々な武術を稽古した体験をもとに身体論を展開している。主な著書に『異聞風土記』(晶文社)、『モヤモヤの正体』(ミシマ社)、『脇道にそれる』(春秋社)など。

Information

書籍名

さよなら、男社会

著者名

尹雄大(ゆん うんで)

出版社

亜紀書房

価格

1,400円(税別)

発売日

2020年12月

ISBNコード

9784750516769

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