小澤征爾が語り、村上春樹が聞く、「音楽」[spotlight page 1]

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ウィーン国立歌劇場の音楽監督に日本人が就任するということは、どう例えればよかったのだろう。ニューヨークヤンキースやFCバルセロナの監督に日本人が任命されるような快挙?いやいや、相手は、オーストリア国家の威信、音楽の都ウィーンの頂点に君臨するオペラハウスである。アメリカ統合参謀本部議長になにかの間違えで日本人が就任するようなものだといったら大袈裟だろうか。どちらにしてもその偉業が人々(少なくとも日本人)には理解できないまま、小澤征爾のウィーン国立歌劇場音楽監督の就任期間(2002〜2010)は終わってしまった感がある。(無論、本人の健康上の理由もあった)

小澤征爾の指揮者としての経歴は華麗なものだ。
戦後、桐朋学園で斎藤秀雄氏に指揮を学び、単身ヨーロッパへ渡った若者は、フランスの名高い指揮者コンクールで軽々と優勝する。それをきっかけに、フランス人指揮者シャルル・ミンシュが教えるアメリカ、ボストン郊外のタンクルウッド音楽祭に招待され一夏を過ごし、クーセヴィツキー賞を受賞し、時代の寵児バーンスタイン率いるニューヨークフィルの副指揮者として凱旋帰国する。(そんな小澤征爾の第一期サクセスストーリーを綴った「ボクの音楽武者修行」〈新潮文庫〉は名著だ)

その後、帝王カラヤンのもとで学び、各国の主要オーケストラとの演奏をはじめ1973年、アメリカの5大オーケストラのひとつであるボストシンフォニーの音楽監督に37歳の若さで就任する。その後もベルリンフィル、ウィーンフィルなどで数々の名演を繰り広げてきたことは周知の通り。
そんなマエストロは、メディアのインタビューには時おり登場するものの「音楽」については驚くほど多くを語ってこなかった人でもある。かたくなに、あるいは周到に「音楽」そのものの解説めいたことを口にすることを避けてきた印象がある。音楽とは、言語を超越した芸術作品だという強い思いがあるのだろう。自身の言葉で語る音楽が、もしチープなものに転化してしまったらという事態を恐れるように。

そんな小澤征爾が村上春樹を相手に、自らの言葉で音楽を語る「小澤征爾さんと、音楽について話しをする」は、昨年ベストセラーとなった本だ。そしてこの度、この本の中で二人が語った演奏をCDに収めた『「小澤征爾さんと、音楽について話しをする」で聴いたクラシック』が発売された。丁寧に語られるブラームスやマーラーの音楽。それは、稀にみる演奏学でもある。また、グールドやカラヤン、クライバーといったスター達との親交をリラックスした口調で語る言葉はどこまでも軽快だ。
それにしても、聞き手を務める村上春樹の音楽への造詣の深さには舌を巻く。レコードコレクターとしての知識の豊富さはもとより、楽曲の持つ要点を的確につきながら、あくまでマエストロの演奏解釈を引き出す手腕は巧妙でいて、自身を律し最良の聞き手に立った姿勢は清々しい。本の中で、小澤征爾が渾身を込めて育ててきた二つのオーケストラ、ボストシンフォニーとサイトウ・キネンオーケストラの演奏の違いを同じ曲を聴き比べながら解説していくのだが、このCDにはそれらの楽曲がページをめくるように収録されている。

世界でもっとも有名な日本人である二人の表現者。世界的ベストセラー作家が聞き語りおこした言葉を読みながら、マエストロが導きだした荘厳な音楽を聴く。今一度、小澤征爾のエネルギーに満ちた力強い指揮姿の復活を祈りつつ、贅沢なひと時を堪能できる企画だ。
INFORMATION
CD/『「小澤征爾さんと、音楽について話しをする」で聴いたクラシック』 ¥3,000(3枚組)
村上春樹書き下ろしによるライナーノーツ付き
品番:UCCD-4800、レーベル:デッカ、発売元:ユニバーサルミュージック合同会社
書籍/「小澤征爾さんと、音楽について話しをする」
新潮社 ¥1,680

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