甘美な、あまりにも甘美なピアノソロ。ヨーロッパ最高のピアニスト、ジョバンニ・ミラバッシの闘争の歌。[spotlight page 1]

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20世紀は破壊と殺戮の世紀だった。そして歴史の苦しみを背負わさられるのはいつも名も無き人々だ。そんな20世紀に、民衆達のそばに寄り添い闘争と抵抗を続けた人々を慰め鼓舞し続けたいくつもの「歌」があった。
第一次インドシナ戦争の最も激烈な戦闘地となったベトナム北西部、ティエン・ビエン・フー。フランス軍の完全敗北が決定した1954年5月7日、パリの詩人ボリス・ヴィアンによる「脱走兵」というタイトルの歌が生まれる。「大統領閣下、私は戦争に行かないために明日脱走します。私は物乞いをして暮らすでしょう。ブルターニュからプロヴァンスまで・・・」。ひとりのフランス人兵士が時の大統領ド・ゴールへ送った手紙の形式をもつこの歌はその後、反戦歌として世界中のシンガーによって歌い継がれることになる。
また、アパルトヘイト運動の代表的存在のひとり、ミリアム・マケバがモザンビーク独立戦争を闘う人民達に捧げた曲「ルタ・コンティヌア」。
第二次世界大戦中、敵対するイギリスとドイツ双方の若い兵士達の隠れた愛唱歌となり、マレーネ・ディートリッヒが歌って世界的にヒットした「リリー・マルレーン」。
ナチスに射殺されたレジスタンスの遺書をもとに書かれたルイ・アラゴンの詩に、フランスの左岸派シャンソン歌手レオ・フェレがメロディをつけた「赤いポスター」。

ヨーロッパ最高のピアニスト、ジョバンニ・ミラバッシが、これらの抵抗と闘争、そして愛の歌を集めたピアノアルバム「ADELANTE」を発表した。イタリアに生まれ17歳でチェット・ベイカーと共演したという早熟したキャリアを持つジョバンニ・ミラバッシ。フランスに活動の拠点を移してからもピアノトリオでのレコーディングや、シャンソン、カンツォーネの名曲を集めたアルバムなど、柔らかいタッチから繰り出される繊細なピアノの音色からは想像できないほど、常に意識的に自身のスタイルをつらぬいてきた骨太なピアニストでもある。

そのミラバッシは、自身10年振りとなるピアノソロの本作を「閉塞感が漂う世界で、ピアニストとしての私が伝えなければならないメッセージがある」という思いから制作したと語っている。ハバナで録音されたというだけあって、熟しきったラテンの果実のように甘味な音色が立ちのぼっては消えていくエレガンテな作品の数々。
それにしてもアルバム1曲目、こんなにロマンティックで、危険な哀愁に満ちた「インターナショナル」がかつてあっただろうか? 闘争や抵抗という言葉自体が、遠い望郷の彼方に消えてしまいそうな現代において、聴くものにいくつものインスピレーションをあたえてくれる珠玉のピアノアルバムの完成だ。
INFORMATION
「ADELANTE(アデランテ)」
ジョバンニ・ミラバッシ
2011年10月19日 VACM-7013 2,625円(税込)

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